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『迷産時代』宇佐美 游

ISBN-4575235792
ISBN978-4-575-23579-1
2007年4月
双葉社
1500円+税
264頁/四六判上製丸背
装画=いとう瞳
装丁=重原隆
少子化のニュースを聞くとなんとなく違和感を覚える。
経済的にとか、子育て環境がとか、子どもの育つ地球環境がとか、ほんとにみんなそんなこと考えているのだろうか。子どものことに限らず人はみんなそんなに先の先まで考えて生活しているの? そりゃあ今現在の生活にも困るくらいの経済状態ならためらうだろうが、多くの人は「なんとかなる」と勝手に思い込んで(場合によっては自らに思い込ませて)産むんじゃなかろうか。だから前述のような理由はあくまでも後付で、そういうことが改善されたとしてもやはり積極的に産もうとは思わないのではないか。だとすると少子化対策なんてのはあまり効果がないもので、むしろ少子化でも成り立つ社会の仕組みについて考えるべきなんじゃないかと思うのだけど。

で、本書は「迷産」の名の通り、子どもを持つことに迷いのある女性たちの物語。主人公の違う6つの物語からなるのだが、それぞれの主人公は友だちの友だちだったりして微妙に繋がっている。そういう構成の話ってよくあるけれども、これはつながりが何とも微妙というか、繋がっている意味を感じられない。別に無理に繋げなくてもいいのでは、という感じで。
それよりもっと気になるのは、ここに出てくる子持ちの女性たちは、お金持ちの旦那がいる専業主婦でいつもおしゃれだが幼稚園母たちとの付き合いに煩わされている、もしくは仕事を続けているが乾いた肌と髪でいろんなものを犠牲にしているか、のどっちかだ。子どもがいると自分の時間なんて全くなくなって、おしゃれもできなくて、ってのがこれでもかってくらいに繰り返される。
でも本当にそうかなあ。子どもを産んでおしゃれもせずめっきり老け込む人もいるけれども、そういう人はもともとおしゃれの比重が低い人だったはずだ。実際に子どもの保育園のお迎えのときなど、きちんとおしゃれな人はいっぱいいるのに。
子どもがいると諦めることがいっぱいのように書かれているけれども、ならば子どもがいなければ何もかも手に入るのか? 違うでしょう? なんか全体に悪意があるというか、ものすごくねじ曲げられているようでなんとも後味が悪い。実際に「迷産」している人が読んでますます産みたくなくなったら嫌だなあ。

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本文はリュウミン。
2008年10月09日(木)17:11 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『桜姫』近藤史恵

ISBN-4048733362
2002年1月
角川書店
1700円+税
240頁/四六判上製丸背
装丁=緒方修一
近藤史恵さんの最初に読んだ本は『アンハッピードッグズ』。読みながらパリの冷たい空気を顔に感じるようなこの本ですっかりファンになってしまったのだけれども、この作品は彼女にとっては異色の作品らしい。その後『天使はモップを持って』を読んであまりの違いに驚かされる。多分最初に『アンハッピードッグズ』を読んでいなかったら、そんなに気になる作家にはならなかったと思うのだ。あまりにタイプの違う2冊を読んだものだからもう1冊。どちらが本当なのだろうか、と。

この本は『天使はモップを持って』に近いかな。モップ少女が掃除するオフィスのかわりにこちらの舞台は歌舞伎の世界。『天使は〜』もミステリに分類されるけれども、起こる事件は人が死んだりするようなことじゃなくてオフィスで起こる些細な出来事。本書でも昔亡くなった人の死の真相について調べたりするミステリなのだが、結末はなんかこの人らしいなあ、と思う。残虐な、血みどろの事件が起こるばかりがミステリじゃない。悲惨な話はニュースの中だけでたくさんだ(いや本当はニュースの中にこそ出てきてほしくないのに。小説だけでたくさんならいいのに)。ここでは謎解きとか事件はある意味どうでもよくて、登場人物のちょっとした言葉や仕草に心を動かされる。例えばこんな言葉。
「自信なんかない。だから、確実に方法を選んで引き寄せるしかないんです。ぼくから見れば、欲しいものがありながら、なにもせず待っているだけの人間の方がよっぽど自信にあふれているように見えます。黙っていても運命が与えてくれると思っているみたいだ」
ミステリのジャンルに入れられるけれども、この人が書きたいのは人の心なのだな、きっと。だから『アンハッピードッグズ』のような恋愛小説も書けるのだろう。

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本文はLHM。
別丁扉が「ルーセンスJrはな」という紙で、透け感のある地にお花の型押しがしきつめられているとってもかわいい紙なのだけれども、使ってみたいと思いつつも個性が強すぎて使う機会のないまま廃盤になってしまったのだが、この本にはぴったりだ。
2008年10月03日(金)16:12 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

Never Let Me Go by Kazuo Ishiguro/土屋政雄=訳

ISBN-4152087196
2006年4月
早川書房
1800円+税
360頁/四六判上製丸背
装画=民野宏之
装幀=坂川栄治+
田中久子(坂川事務所)
カズオ・イシグロの本を読むのは初めて。ブッカー賞受賞の『日の名残り』と本書のタイトルだけ知っていて、その題名のイメージからなんかもっとハートウォーミングなものを想像していた。しかし読んでみたら意外なことに近未来小説であった!
自他ともに認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病院のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく──(カバー表4より)
読み始めてわりとすぐに“提供者”“介護人”とはなんなのか想像がつく。たとえぼーっと読んでいて気づかなかったとしても、物語のかなり早い段階で保護官の口から提供について明かされる。そのこと自体も衝撃だが、介護人、そして提供者にならねばならぬと運命が決まっている子どもたちがそれを平然と受け入れていることに驚きをおぼえる。
ああ、まどろっこしいなあ、そしてこうやってぼかして書いていっても勘のいい人なら想像できてしまうだろう、だからはっきり書くと(以下ネタバレ、反転して読んでください)提供とは臓器提供のことだ。施設は臓器提供のために作られたクローン人間を提供可能な年齢になるまで育てる場所だったのである。
クローン人間や臓器移植をテーマにした小説は決して珍しくはないけれども、本書が異様なのは、そのクローンたちが普通に(といっても隔離されているわけだが、しかし教育を受けたり恋愛したりしながら)暮らしていて、けれども自分の役割についてもわかっていることだ。当然のように“提供”に行き、“2度目の提供”で“使命を終えた”友人のことを「無念だったろうなあ」などと思う。人間は(クローン人間だって頭の中は同じだろう)こんなにも簡単に自分の運命を受け入れられるものだろうか。もちろんそうやって教育されてきた成果なのだが、しかし本当に教育でそんな風にコントロールできるものなのだろうか。
物語の終わりの方で、元保護官の女性がこう語る。
世間があなた方生徒たちのことを気にかけはじめ、どう育てられているのか、そもそもこの世に生み出されるべきだったのかどうかを考えるようになったときは、もう遅すぎました。こういうことは動きはじめてしまうと、もう止められません。癌は治るものと知ってしまった人たちに、どうやって忘れろと言えます? 不治の病だった時代に戻ってくださいと言えます? そう、逆戻りはありえないのです。あなた方の存在を知って少しは気がとがめても、それより自分の子供が、配偶者が、親が、友人が、癌や運動ニューロン病や心臓病で死なないことの方が大事なのです。
その結果人々は提供者の生活について考えまいとした。同じ人間と思わないことにした。だから“普通の人間”に教育された彼らはリアルでない言葉で語る。“4度目の提供で使命を終える”などと平然と言うが、使命を終えるとはもちろん命を落とすことだし、4度目とは何を意味するのか。4つの臓器を頭の中で思い浮かべると身震いがする。

途中からは一気に読んでしまうほど引き込まれはしたのだけれども、これが本当に小説として優れているのかはどうもよくわからない。思春期の少年少女たちの感情やら駆け引きやらがリアルに感じられれば感じられるほど、そのあまりにも素直に受け入れてしまうところに違和感を覚えるから。
最初に“近未来小説”と書いたけれども、途中で気づいて「あっ!」と声が出てしまった。この物語の日付は過去なのだ。だからもしかすると今現在も介護人や提供者がいるのかもしれない……我々が目をつぶっているだけで。
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本文はイワタオールド。カバーまわりは秀英3号。
2008年09月24日(水)16:04 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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