ISBN4-10-125335-8
1996年3月
新潮文庫
362円+税
160頁/文庫判並製
カバー装画=早川司寿乃
エンジェルは天使でもあり、エンゼルフィッシュでもある。エンゼルフィッシュってその名前や佇まいとは裏腹になかなかに凶暴な魚なんだよねえ。
主人公のコウコは、祖母を夜中にトイレに連れて行く役目を引き受ける代わりに熱帯魚を飼うことを許してもらう。
水槽のモーターや水の音って、昼間は全く気にならないのに、夜になると何かを呼び出す呪文かのようにずーっと聞こえてきて気になってしまうものだよねえ。そのせいか祖母は少女時代の出来事を思い出す。
コウコの日常と祖母の記憶とが交互に出てきて、それもなにか透明なのに隔てられた水槽のようだ。中と外とは決して混じることはないはずなのに、ガラスに映った姿はいつの間にかどちら側にいるのかわからなくなるような。単行本ではそれぞれ違う色で本文が刷られていたようなのだよね、それも見てみたいなあ。
この人はどうしてこんなに少女の気持ちを書くのがうまいのだろう。今少女であるコウコも、昔少女だった祖母も。少女時代の罪を、少女趣味なことだと心の奥に封印してみな隠し持っているんじゃなかろうか。
上:SBN978-4-06-215415-4
下:ISBN978-4-06-215416-1
2009年5月
講談社
上下共:1600円+税
上:238頁、下:226頁/四六判上製丸背
装幀=鈴木成一デザイン室
装画=宮木ミチル
『
濁った激流にかかる橋』がとてもとても面白かったので。
いやあ、これも面白い。『濁った〜』は一見普通な、しかし実際はあり得ない川(や橋)がある市を舞台にした物語で、本書はベトナム人等の外国人が続々と移り住んできた団地……というのはそんなにいっぱいあるわけじゃないけれども、でも日本の中には実際にありそうな設定。主人公が派遣で勤めるコールセンターも、電話してくるオタクっぽいクレーマーも、そして2ちゃんねるで戦うネコ語を喋る義理の弟も、実際に私の周りにはいないけれども確かに存在しうるものばかりだ。けれどもレワニワは……ベトナムからやってきて団地の近くで目撃されるレワニワは。お父さんの作り話であるはずのレワニワは……。
『濁った〜』の川も、レワニワも実際はあり得ないようなものだ。でもそんなものが登場しても決して荒唐無稽な話にならないのは、その一点だけを抜かせばものすごくリアルな物語だからなんだよね。あんな川があったらああいう行動を当然するだろう。もしもレワニワがいたら、やはりそんなことが起こるだろう、と。だからとても現実的で面白い。
2分冊なのだけどあっという間に読めます。
ISBN978-4-344-01295-0
2007年3月
幻冬舎
1600円+税
258頁/四六判上製丸背
装画=宇野信哉
装幀=平川彰
(幻冬舎デザイン室)
高校生の頃は時代小説が好きでよく読んでいたのですが、なんか久しぶり。
舞台は江戸の吉原。
聞き手である男性が、失踪した花魁葛城について関係者に聞いてまわっていて、それぞれの語りによって各章ができている。
失踪の謎は……まあそんなに驚くようなことではなかったけれども、この本が出色なのは、まるでガイドブックかのごとく吉原についてよく知ることができること。タイトルの「手引」は葛城の失踪を手引した話なのかと思いきや、吉原案内であったわけですね。花魁だ、遣手だいう言葉は知っていたけれども、それ以外にもこんなにいろんな立場の人が関わっているのだなあ、と感心してみたり。
そして女性たちが店から貰えるのは食事と油だけで、衣装やら何やらは全部自前…といってもそうそう買えるわけはないから、お馴染みさんから贈ってもらったり。そしてそれを換金したり。するとそれを引き取って染め直して売る商売もあったり。
でまあそのお馴染みさんたちも、そんな風に着物などを贈るだけにはとどまらず、紋日には店を借り切ったりするものだから、お金のかかり方が尋常じゃないですよ……。
『三味線ざんまい』のところに長唄三味線を習い始めたと書いたけれども、長唄というのがまあまたなにかと吉原に行く歌詞でして。娘の名披露目のおめでたい唄『松の緑』ですら、なにやら途中から吉原のことになってますよ。で、最初は松の唄だとばかり思っていたから「外八文字? 枝ののび方かな?」とか「根曳き、って抜いちゃうのか?」とチンプンカンプンだったのが、この本を読んで腑に落ちた。いや、なぜに名披露目で吉原なのかは納得できないけど。
というわけで吉原の「手引」として楽しめる本。他の時代小説を読む時にも役立ったりして。