ISBN-4087743667
1998年/集英社
1900円+税
四六上製丸背/256頁
装幀:田淵裕一
図書館に行くとつい小説の棚ばかり見てしまうのですが、時には他の棚も見てみようと足を向けたら……本書を発見。小説の棚は著者別に並んでいるから探しやすいのだけれど、他の棚の分類番号というのは慣れない人にはちょっとわかりにくい。なので検索カード(うちの近所の図書館はコンピュータ化されていないんです)の著者別のをひいて番号を調べて、その棚に行って……でも本はなくて……なんてことを繰り返してしまう。この日は棚の間をぼーっと歩いていたらたまたま見つけたので全くの偶然。で、借りてきたらZitaさんからリンク申し込みのメールが届いていました。Zitaさんは池内氏のファンということでお仲間と「
うに男爵(仮)」というサイトを運営されています。これまた偶然。
本書は著者がいろいろな文献を読んでいて出会った、歴史に名を残すような人物ではないけれどもなぜか気になってしまう人びとについて。なかにはグルジアの画家ピロスマニやマヤの書物『ポポル・ヴフ』など前から知っていたものもあるけれども、ほとんどは「こんな奇妙な人がいたのか!」と驚かされることばかり。その中から特に印象に残った人たちを紹介しましょう。
「キュゼラーク来たる(書記官)」1795-1831。ウィーンの小役人。この人は国中に自分の名前の落書きをしまくった。建物にも山にも、発掘されたばかりの遺跡にも、皇帝の執務テーブルにも書いた。とんでもない事である。急逝の理由は書かれていませんが、この様な人に長生きされては困ります。最近スイスに行ったという話をあちこちでしていますが、スイスという国は日本に比べて格段にきれい。ゴミは落ちていないし、高山植物をごっそり掘っていった形跡もないし、落書きも……ほとんどないのだけれどごくまれに山の上のハイキングコースの岩に名前が書いてあったりした。いつの時代にもどこの国にもキュゼラークのような人がいるものです。
「ゲーテの愛でし子(司書)」ゲーテは勿論有名ですが、そのゲーテがワイマール大公国の顧問をしていたときに、図書館司書ザクセ氏なる人物のために「新年支度金」を支給させたり、前借保証人を買って出たりしていたというから、その関係は気になります。根っからの風来坊であるザクセに好奇心から会って気に入ったから、という憶測がされていますが、それが本当かどうかはともかく、ゲーテの別の一面が見えます。
「姿の消し方(司祭)」肩書きは司祭とあるけれど、実際は詐欺師。その詐欺の手口は見事なのだけれど、それ以上にもすごいのがタイトルにもなっている通り「姿の消し方」。引き際が見事なのである。そして人生の引き際まで見事。詐欺の手口はどれも現代では通用しないものばかりだけれど、その頭の良さにもっと読みたい!という気になります。
「室内旅行家(軍人)」クサヴィエ・ド・メステル。軍人とあるけれども、ここで取り上げられているのは作家である一面。『わが部屋を巡る冒険』『わが部屋を巡る夜の冒険』なる本を書いた。たった一つの部屋についてだけ書かれた冒険譚とのこと。それらの本はなかなか好評だったそうで……ぜひ読んでみたいのだけれども、日本語訳はあるのかな?
他にもいろいろ面白い人びとが出てくるのですが、きりがないので読んでのお楽しみ。でも、調べものをしているときに、偶然見つけた本来の目的とは違うものが気になってしまい、いつまでも覚えている、っていう経験は本読みの方なら皆さんあるのではないかしら。それをきっちりコピーして分類するか、放っておいてうやむやになってしまうかが池内氏と我々一般人との違い。
「姿の消し方」について、PINO様の感想が楽しく、こんな不思議な本を読んでいる方がいたのもうれしくて、トラックバックをさせていただいたのですが、申し訳ありません、誤登録をしてしまいました。お時間のある時に最初の1件と、このコメントを削除して頂けるとうれしいです。