ISBN-4120028364
1998年/中央公論社
1300円+税
200頁
装幀:渡辺和雄
川上弘美の名前が気になるようになったのは、毎度おなじみメタローグの『
ことし読む本いち押しガイド2000』で久世光彦が『
溺レる』を一位に挙げていたのを見てから。このカタカナとひらがなが混ざったタイトルは何だろうと。
その川上氏が芥川賞の『
蛇を踏む』の著者であることに気付いたのはもう少し経ってから。『蛇を踏む』というのもなかなか印象的なタイトルで覚えていたのだけれども、このさっぱりとした著者名と結びついていなかったのです。その辺のことがわかったのは、リンクさせて頂いているゆーよさんのサイト「
ゆーよの部屋」によるところが多い。ありがとう>ゆーよさん。
で、読み始めるといきなり、
くまにさそわれて散歩に出る。
ときた。く、くま??? って動物のくまだよね。しかもそのくまは
三つ隣の305号室に、つい最近越してきた。
んだって。しまった、これは苦手とするファンタジーなのか、ともかくなんか妙なものに手を出してしまったぞ、としばし動揺するのだけれど、数ページ進んでいくと、くまはとても普通に散歩に出ていて、でもやはりくまはくまで魚をとったりもしていて、ああ、こんなこともあるかもしれないな、という気になってしまう(勿論こんなことはあり得ないけれど)。
二つ目の「夏休み」は、梨畑にいる不思議な生き物の話なのだけれど、私はこれがとても気に入った。その生き物は白い毛が生えていて、梨の倍くらいの大きさで、程度の説明しかないのだけれど、それでも読んでいるうちに、ああ、ああいうヤツだな、と思えてくる(それが著者の思ったものと同じかどうかはともかく)。そいつらはなんともうっとうしくて、じれったくて、ちょっと切なくて、でもなんともかわいい奴らなのだ。
で、独立した短編の集まりだと思っていたのだけれど、5つめの壷の中から女性が出てくるという話「クリスマス」に4つめ「河童玉」で一緒に河童の世界に行ったウテナさんなる人物がまた出てきたので、やっとこれは繋がっている話なのだと気付いた私。ところでウテナさんというと、ずーっと昔に読んだ中野翠の『
ウテナさん電報(あれ? 祝電? 速達?)
です』という本を思い出すのだけれど(でもってこの本の内容については完璧に忘れている)、ウテナさんとは誰?
そういった非現実的な話なのに抵抗を感じないのはこの人の文体のせいかなと。短めの文章でまわりくどくない。「夏休み」の不思議な生きものもそうなのだけれど、説明しすぎていないから、何となく、ああ、そういうものもいるのか、という気になれてしまう。文体を説明するのは得意でないので、どう言っていいのかわからないのだけれど、なにか細い線の筆記具でカリカリと書いたような、そしてまあ、この本文の組具合がピッタリなのだ。全体に余白が多くて、行間などはかなり空け気味。と、なかなか参考になるものなのだけれど、カバーの方はちょっと不思議なデザイン。上の写真だとわかりにくいですが、タイトル部分は銀箔押しになっています。どんな帯がついていたのかとても気になるのだけれど、残念ながら図書館の本なのでわからず。