『一瞬の光』 白石一文

by SHIRAISHI Kazuhumi

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ISBN4-04-873191-2
2000年/角川書店
1800円+税
392頁
カバー写真:高橋和海
装丁:鈴木成一デザイン室
この作家はどういう人なのだろう。略歴には「1958年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。」としかない。帯に「期待の新鋭デビュー!」とあるから新人なのでしょう。
で、この本の主題は何なのだろう?(以下ネタバレ注意)主人公、橋田浩介は東大出で一流企業に勤め、しかも若くして社長の側近となりエリートコースを歩む38歳。交際相手の瑠衣は社長の姪でしかも美人で才女。10歳年下。そんな橋田がひょんなことから香折という、身内に虐待された経験のある短大生とかかわることになる。帯文を読むと、この香折とかかわったことによって橋田の人生が変わるようにとれるが、実際に読んでみると、橋田が変わったのは、社内の派閥争いによってコースからはずれてしまったせいである。この派閥争いに関する顛末はなかなか面白い。まあ現実はこんな生ぬるいものではないかもしれないけれど、適度に実在の人物や社名などもちりばめられていて、それなりに現実味はある。このままエリートの失脚を描けばいいと思うのに、なぜに香折というエキセントリックなキャラクターが必要なのか? 虐待というテーマが流行っているから? まあ帯に推薦文を書いている村上龍はこの香折に魅かれたのであろうけれども。そういえばここでまだ村上龍を取り上げていないなあ。『コインロッカーベイビーズ』という彼の最高潮とも言える作品を読んでいないせいもあるかもしれないけれど、私はあまり彼の作品に魅力を感じない。作家に嫌いという結論を出すには最低3冊は読んでからにしたい、と日頃思っているのだけれど、彼の小説は4冊読んだ。多分すすんで5冊目を読みはしないと思う。あんまり書くとネット上の多数のファンたちを敵にまわしそうなのでこのくらいにしておく。
本書の話に戻ると、香折という村上龍を意識しているかのようなキャラクター以上に気になるのが、橋田が辞職して以降が突然『失楽園』に成り下がることである。瑠衣とウマいものを食べる、服装を描写する、セックスする。私は『失楽園』なぞ読んでいないけれど、齋藤美奈子が今は亡き雑誌「pink」に書いた「失楽園ダイジェスト」によればまさにこの三つの繰り返しらしい。それまで真面目に「企業小説」してたのが、突然のこの変わりようには納得いかない。だいたい前の晩遅かったというのに、旅行の弁当に
だし巻ひとつにしても、鱈のすり身を練り入れて料理屋でも滅多に口にできないようなまろやかさに仕上がっている。サーモンのマリネ、鴨肉のつくね、海老しんじょうの湯葉包み揚げ、ブロックリーと三枚肉の牡蛎油炒め、京芋の蒸しものなどが総菜で、山菜のおこわを炊いてきていた。巨峰の葡萄汁でつくったデザートの寒天も、種を除いた巨峰の舌触りが格別で、これだけのものを昨夜、私が部屋を出たあと一人でこしらえたかと思うと感服してしまう。

なんて作ってくる女なんているか? 瑠衣のマンションに入り浸っていた浩介が、急に自宅に帰ることになったのが前の晩9時。瑠衣はひとりになって眠れなかったから弁当を作った、といっているから前から用意していたわけではなく、これだけの材料が常備してあるわけ? 服装にしたって「濃いベージュのノースリーブのパーカーにペパーミントグリーン(死語?)のスカート」なんて誰もが振り向くような美人の服としてピンとこない。セックスに至っては……いいやこんなの引用しなくて。
一気に読ませる面白さはあるのだけれど、「なんでこんな出来事が必要なわけ?」と思わせるようなことが多い。で、はたと思ったのだけれど、『永遠の仔』とちょっと共通点がある。帯に「感動の新感覚エンタテインメント小説」とあるのだけど、感動とエンタテインメントは両立しない、ってことを『永遠の仔』でも思った。メディアの書評で絶賛のようだけれど、私としては次作がもう少し絞り込んだものとなることを期待。

2000年05月03日(水)15:25 by PINO - Category: bookguide
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コメント

NKさん:あんた、バカ?

カオリを描きたかったからこの小説が生まれたんだって事わからないの?

他のすべては、橋田とカオリの関係の「おまけ」なんですよ。

村上龍は書下ろしが出来上がってから帯に書かされたらしいんですけど
2004年05月15日(土) 03:45
PINOさん:ほう、そうなんですか。
でも作家が書きたかったことが必ずしも読者に伝わり、惹きつけるとは限りません。
本の読み方は十人十色で、“正しい”とされる読み方をしない=バカ、って考えは随分と狭いと思いませんか?
本に限らず、おまけの方が魅力的なものも多々あるわけだし、ね。
2004年06月09日(水) 15:12
サオリさん:遅ればせながら、文庫で読みました。私は年令は橋田に近く、頭の中はカオリに近いので、涙なしには読めなかった、駿河が自殺したときには本を閉じて中断し、友人に慰められながらやっと読み終えたのです。今日は書店で表紙を見るだけで涙がこぼれるほどだった。これを読んで思い出したのは、この世の果てというテレビドラマです。ラストが救いようがなくて、そのときも私、とっても落ち込んだ覚えがある。村上龍さんは何冊も読んだけれど、落ち込んだりはしなかった。白石さんにはとても興味があってこれからも読みたいけれど、読後の爽快感はなく胸がいっぱいで、いつも泣きそうになっています。忘れられるよう早く次の本読もうっと。
2004年08月18日(水) 23:48
・・・さん:虐待が流行りモノねぇ〜
へ〜

あんた…何様? ころしますよ?

虐待に何十年も耐えてきた人間が
あんたの文章読んでどー思ったと思う?

自分の性格の間違ってるとこでも探しな
2004年10月15日(金) 04:36
chiikoikotiさん:香折と浩介の刹那的な愛情に感動した。不幸なラストと解釈されがちだが、2人がずっと一緒にいるための唯一無二の展開だったように思う。
2004年12月25日(土) 22:36
しんたろうさん:人の感想を批判・中傷することはできないとおもう。いいかたってものもあるのだろうし。それが「大人の社会のルール」じゃないかな?本を読むって言うのは、その本に対して、自分の感想・意見をいう権利を得ることだとおもっているし。
この本は僕の大学の友達が生活を変えた一冊として、薦めてきた本なのですが、海外に来る際に持ってきてみました。前半は気持ちよく読んでいったのですが、後半なかなか進まない。男としての企業の中での人生と人間としての女性との人生、2つの話が平行して進んで、最後にたどり着いたのは一つのところだった。そんな気がしたのは僕だけでしょうか?
そして、この本を薦めてくれた友人に感謝します。
2005年04月28日(木) 16:14
たくみさん:白石一文の作品には、常に感銘を受けている。
人の価値観は十人十色だが、この『一瞬の光』を読んで、感動するとはいかなくとも、何かを感じとれない人は、現代の日本を生きていてセンスのない人だと思ってしまう。
彼の論理は複雑であり、彼が主張することは考え抜いたあげく出されたものである。もしかしたらある程度の教養を持った人でしか理解できないかもしれない。
ストーリーのなかで、現実にありえないと思ってしまうすました考えの持ち主は、小説とは何かを考えたほうが良いのではないか。
まあ、生意気なことを述べてしまったが、そう考えているものもいるということを誰かに伝えたかった。
2005年07月13日(水) 03:07
出世レースからすでに外れたリーマンさん:先ほど読み終えましたよ。小説とはいえ香折の育ってきた環境を思うと胸がいたくなります。しかし兄のようなこれほどまで理解不能な行動をとる人間がいるのだろうか?そこまで妹を憎み、さらには殺意まで持つことがありえるのか?と思ってしまいました。また、瑠衣のようなここまでひたむきな女性もいるのだろうか?などと、考えてしまいました。私の少ない経験では、女性は非常に好きな相手にしてもうっとおしい思われたくなかったり、自尊心からあのようなどこまでもつくす行動は取らないと思います。とても面白く読みましたが正直なところリアリティに欠けるような気がしました。
2005年10月04日(火) 01:02
PINOさん:なぜかこの本にはたくさんのコメントがつきますね。
ここはあくまでも個人のサイトです。
誰かに伝えたいというだけならAmazonのレビューとかブクログとかそういった場所の方がいいかと思いますよ。
センスも教養もない(とおっしゃるわけですよね)人のサイトにコメントしても仕方ないでしょ?

それから虐待が流行っていると書いたつもりはないですが。
2006年01月07日(土) 02:28

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