『永遠の仔』 天童荒太

by TENDO Arata

ISBN-4877282858

ISBN-4877282866

1999年/幻冬舎
上:1800円+税/424頁
下:1900円+税/496頁
カバー作品:船越桂
装幀:多田和博
こんな旬のベストセラーを取り上げるのは初めてであり、こういうのも読むんだ!と驚かれた方もいるかもしれませんが、読む気になったのはドラマ化が決まって椎名桔平が出ることがわかったから。職場のIさんが本を購入して、なぜだか会社中で回し読みすることになり、普段ほとんど本を読まない人まで読んでいた。私は読むのが速いので後でいいよと言っていたら最後になってしまい、その間にキャストなどもわかってしまったわけですが、先に読んだ人が口を揃えて「中谷美紀は合わない」と言うのだけれど、配役を知ってから読んだせいか私は別に……という感じ。むしろ石田ゆり子が合わないとおもうのだけれども。結局「ソーテイ日記」にも書いた通りに、ドラマは見られず、で、連ドラって初回を見逃すともうどうでも良くなってしまうのですが……と、ドラマの話はそれくらいにして、そろそろ肝心の本の話を。というわけで以下ネタバレ注意
褒貶どちらから書こうかと迷うのだけれど、先に厳しいほうを。
掲示板でも話題になったのですが、動植物に関する描写の甘さは私も感じました。といってもそんなに詳しいわけではないのでどれがどう間違っているとまでは書けないのだけれど、そのせいでこの物語で大事な場所であるはずの山が全然伝わってこない。霊峰は勿論、三人が過去を語り合う木のうろのある場所などは、いちばんの見せ場であると思うのだけれど、そういった場所に全然強さがない。私は西の方の地理には疎いので、これらの山が実際にどんな場所であるかどうかは全く知らないのだけれど、救いを求めて登るような霊峰ならそれなりの場所のはずなのに、この文章からでは東京近郊でいったら陣馬山程度の山のイメージしかもてない。昔『IP5』という映画を見たのですが、それもたいそうな山に行く映画なのだけれど、高尾山くらいにしか見えなかったことを思い出しました。
で、そういった描写しきれていないところがあるくせに、長い。私は長い小説は嫌いではないのですが、それにしても説明しすぎなところが結構ある。花を踏みつぶすなど、行動から内面が想像できるところでもわざわざ「○○と思った」みたいな説明がついているわけです。
ただ私はこの著者の他の作品を読んでいないから憶測でしかないのだけれど、編集者の影も感じてしまうんです。出版社もある程度の勝算がなければ2分冊の本など出さないはず。で、この本がこんなに売れた理由のひとつには、重い内容であるにもかかわらず、漫然と読んでいても理解できるという判りやすさもあったのではないかと。もしかしたら編集者がくどいほどの説明を求めたのかもしれません。O出版の辣腕編集者O女史が言っていたのだけれど、どの作家のところへ行ってもすでに幻冬舎が荒らした後で何にも残っちゃいないんだそう。この出版不況の時代にベストセラーを次々出すのはすごいけれど、文学や文化を育てているとは思えないんですよね>幻冬舎。
同様にやはり編集者側の意図ではと思うのが、この本はミステリーである必要があったのか?ということ。謎解きとしては弱いし、こんなにも大勢の人が死ぬ必要があるのか、とも思う。
なんて厳しいことばかり書いてしまいましたが、でもそれなりに面白かったことは事実です。これだけの長さを数日で一気に読んでしまったし、泣きもしました。終わりの方、梁平が東京に出てきた養父母と食事をするところ。ただ、このシーンが悲しくて泣くわけではないんです。この本を読んでいるときは、文字を追ってのめり込むという感じではなくて、一歩ひいたまま、頭の中の別のところでは自分の知るあらゆる虐待やら老人問題やら死やらを考えている。そういった考えが溢れてしまったときに涙が出たのではないかと。その時私は深夜に自宅で読んでいたのだけれど、もしも電車の中などだったら絶対に泣かなかったと思う。作品の力だけで涙が出る本だったら、人前で読んでいてもこらえ切れずに本を閉じてしまうでしょう。これはそういう本ではなかった。
なにはともあれ、これだけの長さの作品を普段本を読まない人にまで読ませてしまうのはすごいと思います。あえてお薦めするつもりはないけれどまさに今売れる本、なのでしょうね。

2000年04月12日(水)13:52 by PINO - Category: bookguide
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