『101/2章で書かれた世界の歴史』 ジュリアン・バーンズ

A History of The World in 101/2 Chapters by Julian BARNES/ 丹治愛+丹治敏衛[訳]

ISBN-4560044678

1991年/白水社
1922円+税
404頁
装幀:東幸見
ここまでサクサクと本を紹介してきましたが、ここにきて、どう書いていいのか悩む本に遭遇。
タイトル通り、10の章と1つの挿入章から出来ています。第一章は「密航者」の題で、ノアの箱船に乗せられるリストに選ばれなかったある生き物が密航者として乗り込み、箱船の内情を暴露する、というもの。実はこの章が一番面白かった。ノアの箱船の物語をそのまんま信じている人は日本にはあまりいないと思いますが、動物たちの臭いやら、食糧問題やらがもっともらしく書かれています。そういえば星新一の『進化した猿たち』という本には、彼が集めた海外の漫画がジャンルごとに紹介されているのですが「箱船」をテーマにしたものもとても多かった。その中でよく覚えているのが、遠ざかっていく箱船を沈みゆく陸地から見ているケンタウロスが「異国の神は我々には冷たいぞ」などと言っているもの。それからシロアリを頑丈な箱に入れておそるおそる船に乗せる、なんていうのもありました。キリスト教徒の国ではやはり箱船はもっと身近なんでしょう。でもってそれがパロディや風刺になってしまう。日本では宗教関係って茶化されることはあまりないですからねえ。で本書では「どうして縞模様の動物がいるのか?」「どうして種のつながらない生物がいるのか?」などをもっともらしく箱船に結びつけて書いている。確かに生物をひとつがいずつ選んで、なんていうのは人間側からのことで、選ばれる動物たちはたまったもんじゃないし、ましてや選ばれない動物にしてみれば! 語り部である生物を推理するのもまた楽し。
1章がそんな感じなので、ははあ、これは聖書にのっとって世界の歴史を説明して行くのに違いない、と思うとあっさりと2章で裏切られます。第2章「訪問者」は現代の話で、クルーズ船がテロリストにシージャックされるというもの。1章とのギャップに戸惑いながら恐る恐る読み始める。ここでへえっと思ったのは、テロリストがテロに厳しい国とそうでない国とに乗客を分けるのですが、日本人はもっとも寛大な国の中に入れられる。そういうイメージで見られているのでしょうかね?
3章「宗教裁判」は虫VS人間の裁判。と、まるでとりとめのないようだけれど、このあたりからははあ、この本の「世界の歴史」の「歴史」というのは「歴史は繰り返す」ということなのだ、ということが判ってくる。で、読み進めるうちにそれは確信に変わるのだけれども、そのあたりから急に本を読み続けるのが苦痛になってくる。というのも、例えば長編小説だったら、読み進めるとともに話が進んでいき、変化していく。短編集であったなら、いろいろな独立した話の集まりでバラエティーに富んでいる。ところが本書はまるで短編集のようにいろいろな話が並んでいるのだけれども、それらの主題が同じであるから、やや飽きるのであります。でも決してこの本がつまらないと言っているわけではなくて、ただ図書館で借りて読む、というのが合わないのかもしれません。一気に読むよりも少しずつ読んでいくほうがいい感じ。というわけで、読みたくなった方にはぜひお買い求めになることをお薦めします。で、途中疲れてきたと書きましたが、でも最後はよかった。最後の章で、こうくるとは……参った、という感じです。我々は心地よい夢を見て、そしてまた繰り返すしかない。
ところで東氏は結構好きな装幀家です。地味だけれどきちんとした仕事をされている。で、白水社の仕事をたくさんやられているので、白水社の方かと思っていたのですが、違うんですね。本のデザイン料というのは、一般の方が想像するよりもはるかに安いのですが、白水社は特に……。なのでその白水社の仕事をたくさんやっているというと、余計なお世話だけれどちょっと心配になってしまう。けれど出版社の名誉のためにも言っておきますと、デザイン料の安いところは、いい本を出しているところが多いです。いい本を世に出すためならデザイナーも皆協力するんでしょう。そういう本が売れない時代なのは悲しいですが。

2000年01月29日(土)00:14 by PINO - Category: bookguide
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