ISBN-4191250833
1993年2月
徳間書店
1400円+税
276頁/四六判上製丸背
造本・装幀・装画=矢島高光
直木賞というものがなーんか信じられなくなったのは浅田次郎が受賞してからだ。といってもそれは浅田次郎のせいではなくて。彼は十分に受賞に値する作家なのだけれども、なぜ『鉄道員』なのだ?ということ。あの本はとても売れて、「泣いた!」というコメントをあちこちで目にし耳にしたけれども、確かにあれは手っ取り早く泣けるかもしれない。そういう要素を集めたネタ帳みたいな本だから。でも浅田次郎ならあのネタ帳をもっと膨らませて長い話が書けるように思えるのだよね。実際『鉄道員』と同じネタがだぶる『見知らぬ妻へ』というのもあるし。これもネタ帳のような短編集だけど。賞をとるとどうしても『鉄道員』の作家、と認識されてしまう。本当は面白い長編を書く人なのに。だから『鉄道員』ではなくて長編でとってほしかったのになあ。
その浅田次郎の受賞よりもずっと前の長編。文句なく面白い。
ヤクザが経営するホテルにうっかり普通の客が紛れ込んでしまったり、で、この人とあの人とが知り合いだったり、昔のダンナがいたりと偶然もいっぱいあるのだけどそんなことも許せてしまう。だってもともとありえないような話なんだもの、なんでもありだ、まさにそのなんでも来いのホテルのように。
「不自然」とか「リアルじゃない」とかいった感想を書くと「小説なんだからリアルじゃないのは当たり前」みたいなことを言う人がいる。そんなことはもちろんわかっていて、求めているのはその本の中でのリアルだ。現実にはありえないようなことでも本の中でしっかりその世界が出来上がっていて、現実にはいないような登場人物がその世界の中でいきいきと動いているのなら、それはそこではリアルなのだから。
そういう意味でとてもリアルなこの本、支配人やらシェフやら板長やら魅力的な人が大勢いて、これで終わらせるのはもったいない、と思ったらちゃーんと続きも出ているのね。それは読まなきゃ。
about book design...
クレジットに「造本」とある本はたいていちょっと凝っていて、これも巨大なノンブルや大きな文字で抜粋の書かれている章扉など、小説にはちょっと珍しいデザイン。
本文はNKL。扉の大きな字はSHM。こういうのが写植で組んであるのってなんか今見ると新鮮。