『ららら科學の子』矢作俊彦

ISBN-4163222006
2006年6月
文藝春秋
1800円+税
480頁/四六判上製丸背
装幀=石崎健太郎
イラスト=手塚治虫
タイトル=山田哲朗
有名なのに読んだことない作家の本を読もうキャンペーン第三弾。といっても今回のは受賞後第一作ではないし、そもそも読んだことないと言ってもゲラやら文芸誌の連載やらでは読んだことはあるのだ、ただ本の形で読んだことがないというだけで。
本当は図書館に着いたときには違う作家の本を借りるつもりでいた。しかしその本を開いてみるといきなり生々しい性描写から始まっていて、別にそういうのが出てくる本が嫌だと言うわけじゃないけれども最初からだとちょっと引くなあ。で、あてをなくして棚の間をうろうろするうちに出会ったのがこの本。

最初の頁をちょっと読んだだけで引き込まれる。わくわくする。
この前に読んだ『夢を与える』もねえ、最初はわくわくする感じがあったんだよね。けれどもその比じゃあない。将来有望の最年少芥川賞作家も“恐るべき子ども”と言われた矢作氏にはかなわんということか。まあ矢作氏の若い頃の作品を読んでいないので、これが元々なのか、それとも年の功なのかはわからないが。

主人公は学生運動の最中に中国に渡り、30年ぶりに帰国した男だ。30年というのは微妙なタイムマシンだよね。携帯電話に茶髪の若者……見慣れぬものに驚くけれども、まったくどうしてよいかわからないってほどじゃない。バブルを経験して町並みはすっかり変わったようでもあるけど、変わらず残っているものも意外とある。
そんな様子が面白くってぐんぐん読み進めてしまう。ああでもこれが面白いと思えるのは東京出身だからだろうなあ。今の東京も昔の東京も知らなかったら、主人公の目に映るそれらの混在した光景を想像することができないだろうから。そしてもうちょっと上の世代の人の方がもっともっと面白く読めるに違いない。学生運動とか文革とかをリアルに体験した人ならもっと、ね。

登場人物にはヤクザまがいの人々が多いのだが、みななかなかのインテリなのである。日本人の身なりや、新品の車、あちことで建設中の建物を見て「本当に不景気なのか?」といぶかる主人公に、ヤクザまがいな友人が言うセリフがいい。
「貧困っていうのは天然痘と同じさ。死の病だが、そのうちどうせ特効薬がうまれる。科学の敵じゃない。しかしな、貧乏は風邪みたいなもんだ。特効薬なんかできっこない。だいたい人によって症状も違う。三十九度の熱出しても、会社へ行く奴は会社に行く。くしゃみひとつで寝込んじまう奴がいるように、貧乏で社会を休む奴もいる。日本は今のところ貧乏じゃない。しかし、貧困には喘いでる。だから、お前には見えねえのさ」

about book design...
本文書体はなんだろ、にゅるっとした「な」や返しのない「に」を見てA1明朝かとも思ったんだけど、よく見ると違うなあ。
カバーは図書館の本なので外せないのだが、穴があいていて、そこから表紙のアトムの漫画が見えている。

2008年07月09日(水)15:50 by PINO - Category: bookguide
« 『夢を与える』綿矢りさ | home :: archive | 『魔』笠井潔 »

関連記事

関連記事はありません

トラックバック

トラックバックはありません

コメント

コメントはありません

コメントする

since 4 Jan, 2000. sorry, Japanese only. link permission free (please TrackBack!).
all contents by PINO. all rights reserved.