ISBN-4105090178
2006年9月
新潮社
1800円+税
144頁/四六上製角背
Drawing by Silvia Bâchli
Design by Sinchocha
Book Design Division
Amazonからしばしばおすすめメールが来るのだけれども、それがなんかいつもちょっとずれているというか。そもそも私がAmazonで買う本って中身を見なくても買えるような本(ラジオ語学テキストとか)が多いから、送られてくるメールにも語学教材が多いし。そんなにテキストばかり買いませんよ。
けれどもあるとき届いたメールに載っていた本はどれも読みたいと思うものばかりだった。これもその1冊。中南米の小説が好きでレビューを投稿したりしたからだな、きっと。一番たくさん読んだ中南米の作家はプイグだけれども、一番好きな本はカルペンティエルの『失われた足跡』だ。でも中南米の作家だからってひとくくりにするのは変だよね、日本の作家だって多種多様で一つにはまとめられないのだから。
それでも中南米の作家の本は日本のとは違う、と思う理由は死との距離感だ。人が死ぬということが我々よりもずっと身近なのではなかろうか。たいていの作品で人が死ぬ、それも自然死じゃない形で。そんな描写を読むと、南米を旅したときに見た道路の血だまりを掃除していた光景を思い出す。強盗たちが射殺されたその場所はすごい臭いで、しかし掃除をしている人たち以外は普通に通行して普通に生活していた。日本であんなものを見る機会はそうはあるまい。
この本でも自然死じゃない形で人が死ぬ。しかしそれはたいしたことじゃない。一番死に近いのは90歳の主人公のはずだ。けれどその90歳は冒頭から
満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。
と度肝を抜かすようなことを言う。眠り続ける少女。老いた猫。全編に死のような死でないような怪しいものの匂いが漂うから、血の臭いは消されてしまう。
今までに読んだガルシア=マルケスの作品は『百年の孤独』と『族長の秋』で、どちらもページいっぱい埋め尽くす改行のない文章に視覚的に圧倒されながらも投げ出すことなく読み終わる面白さではあるのだが、人間関係がわからなくなったり、時間の感覚が掴めなかったりと混乱しがちで一筋縄ではいかない印象が。しかしこの本は「ガルシア=マルケスってこんなに読みやすかったっけ?」と思わせるほどすらすらと読めた。孤独な老人を取り巻く登場人物は少ないし、90歳の誕生日から91歳の誕生日までのたった1年間のできごとだ。そして死のような怪しい匂いの中をふわふわと恋にうつつを抜かしながら読んでいくとあっという間。読み終えてからパラパラと本をめくって初めて気づいた、この本も他のガルシア=マルケスの本のようにびっしりと改行のない文章だったのか、と。
この作品を書いたとき著者は77歳。こんなとんでもない90歳の誕生祝いを思いつく77歳は、まだまだ元気に文章を書き続けるのではないかしら。
about book design...
本文はリュウミン。付き物の凝りようからするとちょっと意外。
その付き物だけれども、まずカバー。一見1色+箔、かと思うけれども2色だ。社名などは特色グレー1色。著者名などはそのグレーにスミアミを乗せて濃いグレーにしている。ううーん、なんか微妙。
最初の扉は共紙になっていて、かわりに別丁で1枚カラペみたいなのが入っている。これも微妙。で、そのあと扉、目次扉、目次(もほとんどタイトルだけだから)、欧文扉に本扉……とこれでもかとタイトルが続くのでちょっともったいぶりすぎというか。
でもガルシア=マルケスを読むにはやっぱり単行本だなあ、と思う。『族長の秋』は文庫だったので、余計に字がびっしりして見えて読みにくかったような……字も小さくて行間や余白も狭いしね。
PINOさん:中南米好きだからね、中南米の作家の本は結構読んでいるのよ。
プイグは大好きだから亡くなった時はショックだったよ。
ガルシア=マルケスは壮大な物語を書く人、ってイメージがあったからさ、これには驚いたよ、じいさんの小さい世界の話なんだもの。
そして自分もじいさんのくせにこんな本を書いてしまうことにやられた!って感じです。
りつこさんもぜひ〜。