ISBN-4334075339
2003年8月
光文社カッパノベルズ
819円+税
296頁/新書版並製
カバーデザイン=泉沢光雄
ノベルズなんて読むのは久しぶり、20年以上読んでいないような気もする。そもそも10代の頃は推理小説ばかり読んでいた時もあったのに、いつの間にかほとんど読まなくなっていた。とても久しぶりに読む「長編本格推理」というわけで楽しみに読みはじめたのだけれども。
推理小説を紹介するのは難しい。ネタバレになってはいけないからだ。なのでカバー表4にある文章をそのまま紹介すると
週明けに国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生した。三人の犯行グループが、乳幼児を人質に取って乗客の自由を奪ったのだ。彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。緊迫した状況の中、機内のトイレで、乗客の死体が発見された。誰が、なぜ、そしてどのようにして──。スリリングな展開とロジカルな推理!(以下略)
で、読んでみた結果は……いささか期待はずれであった。
というのも私はカバーのあちこちに書いてある通り「本格推理」を期待して読みはじめたのである。しかし実際は「本格推理」というよりも「ファンタジー」のような要素が強いからだ。だからそう書いてあればもっと納得して面白く読めたのかもしれない。
(以下、ややネタバレ)ハイジャック犯の3人はトイレの死体の解明を、たまたま近くの席にいて死体発見者の恋人である「座間味君(座間味のTシャツを着ていたから)」にゆだねる。そこから先がどうにも緊迫感がない。ハイジャックされた機内、3人の腕には人質の子ども、という状況での会話とは思えないのだ。3人は最初それぞれが別の出入り口に立っていたのだが、トイレの死体が見つかったので後部の一カ所に集まっている。しかもなにやら話している。そんな状況で機内の前方まで制御できるのかなあ。最初に携帯で外部と連絡を取ることを禁止しているけれども、絶対メールなど送るやつはいるだろう。それに大人はともかく子ども、人質以外にも子どもの乗客はいるのだ、状況の理解できない子どもたちが2時間もおとなしくしているわけがない。人質の子どもたちだって乳児とはいえ暴れるだろう。片手で2時間おさえているのは至難の業だ。会話が進む間、その他大勢の乗客についてはほとんど触れられていないんだよね。(ここよりかなりネタバレ、反転して読んで下さい)
そもそも犯人が誰であるかはその行動がやけに詳しく書かれていたところからすぐわかる。手順や動機は別にして。で、ファンタジーだと思った一番の理由は、ハイジャックの目的が、開放された師匠に月の扉を開けてもらって別の世界に行くため、なのだ。トイレの殺人もそのことと関係している。その扉を開ける力を持った師匠は本当のカリスマで、ぐったりしていた人質の子どもたちも彼が軽く頭を触れただけで生気を取り戻したらしい。うーん、この設定って推理小説としてありなのかなあ。しかもその師匠なる人物、会った人が、警察官までもが次々と惹き付けられるということは書かれているけれども、その人自身がどうすごいのかが全然伝わってこないので、そんなすごいことができる人だとは信じがたいのだ。そしてハイジャック犯たちの目的が別の世界に行くことだから、逃走経路は用意していないのね。推理の対象はトイレの殺人の方とはいえ、設定があまりに非現実的なような。と書くと文句ばかりのようだが、あくまでもそれは「本格推理」小説だと思って読んだからであって、ファンタジーと思えば面白かったのかもしれない。
about book design...
本文は本蘭明朝。ノベルズって2段組だったのね(←そんなことも忘れるほど長らく読んでいないらしい)。