ISBN-4789711099
1997年2月
ソニー・マガジンズ
1800円
296頁/四六上製
装丁=虎尾隆/林恵子
主人公サムと双子の妹リサ、兄のラフは子どものときに両親を事故で失い、その後別々の里親家庭で過ごす。20歳を過ぎてから再会し、それまでの時間を取り戻すかのように2週に一度集まって思い出話をする。いや、思い出話をするのはもっぱらリサだ。なにせ彼女には胎内記憶まであるのだから。一方サムは事故以前のことを全く覚えていない。
そんな設定の物語なのだが、最初はなかなか入り込めずにいた。どうもサムがどうしたいのかが見えてこないのだ。でもそれこそがこの本が若者に支持された理由なのかもしれない。仕事もない、家もない、宙ぶらりんな若者たち。
しかし物語半ばから不思議な世界が見えてくる。お堅いクリニックに勤めていたはずの女性がいつの間にか酔客相手にダンスをしている。サムの記憶はリサに植え付けられたもののはずなのだけれども、ほんのわずかにサム自身の記憶がこぼれ落ちてくる。ふいに昔見た映画『裸のランチ』を思い出した。あの映画は現実と幻覚とが交錯する世界だったけど、この本は本当の過去と本当だと思っていた過去、そして現在とが交わる世界だ。その中でクリニックの女性や、跡形もなく消えてしまった油田が象徴的だ。過去とは目に見えないものなのだ。
読みはじめ、サムがどうしたいのかわからなかったと書いたが、それもそうだ、彼自身もわからなかったのだから。そして彼らは失われた楽園を求めているのだ、現代の日本の若者のように。
about book design...
本文は本蘭明朝。目次の組み方が、訥々とした感じがよく出ている。
カバーのイラストからはもう少し無邪気な物語を想像していたかな。