『初恋』中原みすず

ISBN-4898150640
2002年2月
リトル・モア
1600円+税
176頁/四六上製
装画=浅野忠信
装幀=池田進吾(67)
たまたま見つけた20代の女の子のブログを読んでいる。本の好きな彼女は営業事務のOLから一念発起して出版社に転職、憧れの編集の仕事をするようになった。好きな仕事ができて張り切る彼女を密かに応援していたんだけどね、結局1年で会社を辞めることに。理由は「プライベートの時間を大切にしたいから」。
仕事でいっぱしの人間になろうと思ったら、他のあらゆることを犠牲にして打ち込む時期が必要なんじゃないか、なんて思う私は古いのでしょうか。なんかもったいないなあと思いつつ、本好きだからといっていい編集者になれるとは限らないし、むしろ一番好きなことは仕事にしない方がいいのかなあなんて思ってみたり。知らない人のことなのでどうしようもないんですが。
その転職を機に彼女のブログからはだんだん遠ざかってしまったけれども、そこで以前紹介されていたのがこの本。

この甘いタイトルからは想像できないが、本書は府中3億円事件の実行犯が語る物語だ。どこにもフィクションとは書いていないし、主人公の名は著者と同じ「中原みすず」。ということは本当なの?という気持ちと、「まさかね」と思う気持ちとでなにやら落ち着かないまま読み進める。
というと事件の真相だけが焦点の謎解きものかと思うが、そうではなくて主人公の青春の物語なのだ。タイトル通り「初恋」の物語であり、友情や家族についての物語でもある。
そういった面から読むと、著者が本当に実行犯かどうかなんていうのはどうでもいいような気がしてくる。いや、きっと違うのだろうとも思ってしまう理由のひとつは「初恋」というタイトルのせいもあるのだが、元は城真琴の名前で出された『褐色のブルース―幻想の手記』という本だったとわかるとちょっと現実味をおびてくる。そしてノンフィクションとして書かれているらしい『真犯人―「三億円事件」31年目の真実』と登場人物がだぶっているらしいので、実行犯かどうかはともかくとして、本当に事件に関わりのある人物であったのかもしれない。
『真犯人』の方は読んでいないのだが、ネットの書評を見るととにかく文章がひどいらしい。まああまり文章がうまいと現実味に欠けるのかもしれないが。一方この『初恋』の方は事件云々ではなく、小説としてきちんと読める、といった意見も多いが、それもどうかなあという感じ。私自身はあの事件のニュースをライブで見た世代ではないのだが、この文章からだけではあの時代の雰囲気は感じられないなあ。もっと上の世代の人が読むと、リアルに感じられるのだろうか。そうすると彼や彼女の犯行だとすんなり信じられるのだろうか。

about book design...
本文はリュウミン。
装画の浅野忠信って俳優の浅野忠信本人らしい。映画に出ているわけでもないのにどうして彼の絵を使ったんだろうね。

2007年03月21日(水)12:41 by PINO - Category: bookguide
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