『火を喰う者たち』デイヴィッド・アーモンド

The Fire Eaters by David Armond/金原端人=訳

ISBN-4309204279
2005年1月
河出書房新社
1500円+税
248頁/四六上製角背
装丁=清水恵
装画=丹地陽子
この作家の本は初めてなのだけれども、ヤングアダルト小説界では人気のある人らしい。舞台は海辺の貧しい町。そこで育った主人公ボビーは、試験に受かって上流階級の子が通う中学校に入るのだが、そこの先生たちは鞭を振り回す残酷な人たちで。父親が病気になったり、しかし一番の恐ろしいことはミサイルを積んだ船が行き交う“キューバ危機”だ。
この本の読者のほとんどはキューバ危機を知らないだろう。北朝鮮からミサイルが飛んできたり、中東では戦いの続く昨今だけれども、我々はそれがすぐに戦争の恐怖には結びつかない。しかしキューバ危機は、核武装した2大国の睨み合いということもあるが、それ以上に、この主人公の父親を含めた現役の世代が第二次世界大戦の経験者だということがよりまざまざと大三次世界大戦への恐れを抱かせたのだろう。タイトルの「火を喰う者」であるマクナルティーもビルマで戦い、そして気がふれ、今は火喰いなどの大道芸をして暮らしている人物だ。火喰いの芸は、息を吐くべきときに吸ってしまうと肺をダメにしたり命を落としたりする。そんな危険な芸を自らやる火喰い男。「たち」と複数形になっているのは、キューバに向かう船も同じように火を喰おうとしていたからか。そしてボビーと同級生ダニエルもまた、学校で無謀なことをするのだが、それも火喰いなのかもしれない。そう、我々もみんな火を喰っているのかも。
ボビーが祈る傍らにあるのはキリスト像などではなく、母親が奇跡の泉ルルドで買ってきたスタンドだ。そしてそれが象徴するように奇跡は起こる。0時2分前を指していた時計の針が戻ったのも、ある意味奇跡なのだから。
戦争について書かれた本はたくさんある。けれど、世界が滅亡するような戦争の姿が見え始めて、しかし自分のまわりでは日常生活が、普通に学校に行ったり仕事したりするような、が営まれているときの祈るしかないときの状況が書かれているものは少ない。こんな日はもうこなければいいのに。

薄暗いような湿気たような、雰囲気のある世界の本なのだが、どうも違和感を感じてしまうのが、何度も出てくる「あいよ」という返事。子どもも大人も使うので1見開きに何度も出てきたりする。いちいち「はい、先生(サー)」と答えなければいけないような上流階級の学校や、引っ越してきたインテリ家族の子どもの言葉遣いと差をつけるためにそうしているんだろうが、その返事以外は普通の言葉だから余計に違和感が。かといって会話が全部なまっていたりしたら読みにくくて仕方ないんだろうけれども。

ところで。カバーのイラストは表4や袖にまで繋がっている1枚の大きなもの。表1はいいんだけど表4にボビーと友人の女の子エイルサが書かれているのだが、それがどうもかわいすぎる。特にエイルサは母親亡き後、家事をし、石炭をとる手伝いもして真っ黒になっているパワフルな、かつ聡明な女の子のイメージとはだいぶ違う。でもまあおかげで若い読者は手に取りやすくなっているのかもしれないけどね。

2006年07月25日(火)11:45 by PINO - Category: bookguide
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