ISBN-4833417162
2001年2月
プレジデント社
1800円+税
464頁/四六上製丸背
装幀=菊池信義
衝撃的なタイトルのこの本は、書店、流通、版元……など本が作られ、そして売られる過程においての実態や問題点について書かれたものである。傍流とはいえそれに関わるものとして、そして何よりも本がなくては生きていけない読者として知っておいて損はない内容だろうと読んでみることにした。
本が読者の手元に届く仕組みは、たとえば野菜がスーパーに並び、それを購入するのとはちょっとわけが違う。でもそのことを意識しながら書店に行く人はあまりいないだろう。この本を読めばその仕組みも、そしてどういう利益配分になっているかまでよくわかる。たとえば、
中堅出版社の営業部長が見せてくれた書籍の原価率の計算方式はきわめてわかりやすい。
まず定価に刷部数をかけたものを100パーセントとする。これから取次と書店の手数料(マージン)の30パーセントを天引きすると70パーセントになる。これが基礎となる指数である。次に天引きされるのは返品率である。返品率をあらかじめ最低限の20パーセントと想定しておく。つまり実売部数を80パーセントと想定する。手数料を天引きした基礎指数の70パーセントに実際に売れるであろうと想定した80パーセントをかけた56パーセントという数字が版元が一冊の書籍から得られる収入指数となる。
一方、支出の方はどうか。印刷、造本代が20パーセント、著者への印税、装幀、校正費その他もろもろをあわせた編集費を12パーセント、さらに広告費を10パーセント、返品のための倉庫代を3パーセント、人件費を10パーセントとして合算すると、支出の合計は55パーセントとなる。
たりの利益は10円である。一万部刷っても利益は十万円にしかならない。
しかしこれは返品率をぎりぎりの20パーセントと想定した計算式なので、この通りにいくのはむしろ珍しい。たとえば返品率が40パーセントになると、収入指数は42パーセントになり、たちまち支出の方が13パーセントもオーバーするマイナス支出となる。
しかしその反面、返品率がゼロになったとすれば収入指数は70パーセントになり、まるまる15パーセントが版元の利益となる。定価千円の本で十万部刷ったとすれば、千五百万円、百万部ならば一億五千万円の利益が転がり込む計算である。出版社はベストセラーが一冊出れば、お札を刷っているのも同然といわれるのはこのためである。
なるほど、私のやっている装幀という仕事に払われる報酬は「編集費」からなわけだが、初版部数の減っている昨今、デザイン料の相場も下がりつつあるのはそう言うことなのね。まったく同じ仕事をしているにもかかわらず報酬が減るというのは因果な商売であるわけだけど。よしんばベストセラーになれば出版社にはそれだけの利益が転がり込み、著者にも印税が入るというのに我々にはそれは還元されないものねえ。
どうして本が売れないのか。それに変わる娯楽が増えたせいだ、なんて意見もあるけれども、子どもの頃から常に本を読んできた私にはテレビも携帯もネットも本に代わるものだとは到底思えない。確かに一時期あまり読まない時もあったが、やはりタダで読めるネット上には本に代わる文章なんてそうはないのだ。ま、お金を払うに値しない、それ以下の本も出てはいるけどさ。だからたとえ本から離れる時期はあっても、いずれはみんな私のように戻ってくるのではないかと思い、本書にも
「大学生が本を読まなくなったのは事実です。しかし、いまのような状態がつづくとは思わない。フリーターでもやっていけるという今のような時代はもう五年もすると終わるでしょう。やっぱり大学で勉強して本を読んでないと、社会に出ても使い物にならない時代が必ず来る。もし来なかったら日本はもう終わりです。そういうときに出版社が、まともな本を出しているのか。それが一番大きな問題だと思います」(藤原書店社長藤原良雄氏のインタビューで)
とあるが、本が出てから、いやこのインタビューが行われてからはもう5年経ってしまっているだろう。ということは日本は終わりなのだろうか?
本の中には大勢の編集者の名前も出てくる。私が今まで一緒に仕事をした中で「この人は相当の切れ者だな」と思うような人は取り上げられていたりして、やはりと思う。でも仕事をしている中には、著者に社長、営業などの意見をばらばらと伝えてくるだけで「あなたはいったいどんな本にしたいの?」と思うような人も。人によってあまりに仕事の範囲が違うから、そもそも編集という仕事はなんなのだ?と思うこともあるが、
──編集者に一番よく似た仕事って、何だと思います。
「うーん、床屋かな。世間話しながら現代風にカットして。でも、毛が伸びる能力は作家本人が持っている」(新潮社出版部次長佐藤誠一郎氏のインタビューで)
こんな言い得て妙な発言も出てくる。
仕事をしていてよく言われるのは「これじゃタイトルが目立たない」「もっとタイトルを目立たせて」なんてことだけれども、私は“タイトルが目立つ”本よりも“本として目立つ(存在感がある)”本が作りたい。もっと言えば目立つことは本当に大事なのだろうか? 「売れる本を」と言われるけれども、どんなに売れても読み終わるそばから新古書店に売られるような本は嫌だ。「買いたい本」じゃなくて「所有したい本」を……と、いくら思っても売れないことには所有もされないんだけどね。