ISBN-4167223031
2005年9月
文春文庫
600円+税
352頁/文庫
装幀=多田和博
ISBN-4163211306
自費で医者にかかったことはあるだろうか? たいていは歯医者だろう、私もそうだ。就職して2年目くらいだろうか、見えるところだったから言われるままに迷わず自費で治療した。当時は医療費控除も知らなかったほど診療報酬や保険などについて無知だったのだが。
自費と保険の違いを、保険だったら一部で済むが自費だと全額自分で払わねばならないということだけだと思っていないだろうか? 少なくとも私はそう思っていた。が、数年前、一番奥の歯を自費で治療するように勧められて疑念を持った。いや、勧めるなんてものじゃないな、うんと言うまではその後の治療を進めないといった感じだったのだ。いかに保険がダメで自費の方が良いかを延々30分聞かされるだけで治療はまったく進まない(でも清掃とかするのでお金は取られる)なんてことも数回。しかし今はネットで情報の入る時代、いろいろ調べているうちに保険と自費の最大の違いは何かがわかった。
保険の場合、○○という処置=5点、といった具合に決められている。だからどこの医者でも同じ値段のはずだ(実際は回数を増やしたり、毎回歯石を取ったり……で変わるけど)。けれども自費の場合は同じ□□という処置でも医者によって自由に値段を決めていいのだ。だから家賃の高いビルに入っている歯科の方が高くなったりすることも。「自費」と言うと単に自分で払う、という違いしかないようだが本当は「自由診療」なのである。
保険で十分、と判断してから反撃に出る。いつまでも説明ばかりで治療が進まないようじゃ困るでしょ、こっちだって忙しいのだ。方向が定まってからの交渉ごとなら得意なのだ(好きではないけど)。反撃する患者は少ないのか、次第にボロを出す医者。「うちはX線も普通の機械とは違う、体に影響のでない高額な機械を使っているし、根の治療に使う針もスウェーデン(だっけな?)から取り寄せたものだ。けれど保険だから安い機械を使っているところと同じ金額しか貰えないから」なんて話までし出す。ってことはそういった設備投資にかかっているお金を自費に切り替えることで取ろうということですか?
結局保険で治療できたのだが、その歯の治療が終わると「これで終わりです」と他にも小さな虫歯はあったのにそこには触れず。つまり保険で治療したければもううちには来るな、ということらしい。
さてさてとっても前置きが長くなったけれども。この本は病院を舞台とした医療サスペンスであるが、保険や自費(自由診療)についても問題とされている。
中堅病院の院長であり市医師会会長も勤める多忙な医師が深夜に呼び出されることも多い警察の顧問医も兼ねるのには理由があった。警察に顔が利くようになるだけじゃなく、交通事故の患者の運び先を指示できるのだ。そしてこの本を読んで知ったのだが、交通事故は自由診療。値段は医師が決められるから保険の3倍の単価にしたりも出来る。必要のない検査や処置をして多額の請求が出来る、ある意味「おいしい」患者なのだ。
正直この導入部が一番衝撃的だった。それ以降の贈収賄や偽装などはまだ想像の範囲だったからだ。同じように病院を舞台にした小説でも、最近読んだ『閉鎖病棟』や『安楽病棟』などは本好きな母に勧めることが出来たけれども、これはちょっと。いくらフィクションとはいえ、実際の病院だって採算を度外視して治療しているわけはあるまい、最善を尽くすよりも、採算や病院の評判を気にしながらやる部分もあるはずなのだ、きっと。だからねえ、歳をとるにつれ病院にかからずに済まなくなるわけだから、病院を信用できなくなるような本は薦めにくいよ。
(以下ネタバレ、反転して読んで下さい)
最後はメデタシメデタシ、な感がありすぎですが。古沢が病院を渡部に譲るのは、青山のような小物とは違って大物は往生際がいいってことでしょうか。次期医師会会長の松島が最後に善良な人物と判明するのは、やっぱりトップは正しいとしないと本当に医療不信に陥るからでしょうね。しかし黒田兄が女医と熱海に行くのは変だよね、なにもわざわざ混んでいるところにいく必要はないのだから2部屋取れるところに行けばいいじゃない。ってまあそれもハッピーエンドのためには必要な設定なんだろうけれども。「彼女の肉体は熟れていた」なんて文章がちょっとね。ともあれ目が離せない感じで一気に読んでしまいました。サスペンス劇場とかでドラマになりそうな雰囲気。