ISBN-4087752488
1999年2月
集英社
1900円+税
384頁/四六上製丸背
装幀=白石良一+
生島もと子
装画=八木美穂子
ISBN-4087474437
2002年5月
集英社文庫
実は直木賞というものを侮っていた。選考委員は評論家ではなく作家だ。ということは自分たちの地位を脅かすほどの逸材ではなく、しかし書籍というもの全体の売上に貢献するようなものを選ぶのではないかと。そう強く思ったのは『鉄道員』のときで、浅田次郎は十分に受賞すべき人かもしれないけれども、あのようなネタ帳のような本(実際『見知らぬ妻へ』とネタはダブっている)じゃなくて他にもっとしっかり書き込まれたものがあるだろう。けれどあれは普段まったく本を読まないような人であってもすぐに読めて手っ取り早く泣けるようなものなのだ。そして最近でも若い女性二人で芥川賞&直木賞を独占したことがあったけれども、あれだって内容よりも話題性で選んでいるような。
さすがに『赤目四十八瀧心中未遂』を読んだ時にはそんな考えを改めざるを得なかったが。しかしこれは特殊な例なのだ、と思っていたのだが……。
本書も直木賞受賞作である。それでも読むきっかけになったのはまたもや翻訳家藤田真利子さんのサイト(
書斎周辺)。
舞台はルイ王朝時代のフランス。王と王妃の離婚裁判、というのが主な内容だ。そんな時代のフランスにも、そしてその時代の教会による裁判にも知識も興味もないまま読み始める。カノン法とかマギステルとかの知らない言葉を眺めながら、どうも入り込めなさそうな本を借りてきてしまったなあと思うも、主人公フランソワが新弁護士として立ち上がったところから、その裁判も一気に盛り上がるのだが、読む方もすっかり目が離せなくなってしまう。そう、これは気難しい歴史小説かと思いきや、極上のエンターテインメントだったのだ。
離婚裁判と言っても現代のそれとはまったく様相が違う。そもそも離婚はキリスト教で禁止されているので(この時代、裁くのも弁護士も聖職者である)離婚するためには「そもそもこの結婚が無効だった」と立証せねばならぬのだ。たとえば「実は近親者であった」とか。でも近親者であっても金銭を積んで許可証を教会から貰ってしまえば結婚できる、つまりすべて金次第、見返り条件次第、なわけ。で、原告が国王、被告が王妃、とあればどちらが優勢か。事実なんてどうだっていい、わかりきった方向に裁判は向かっていたのだ、主人公が立つまでは。
裁判の盛り上がりが下火になると同時に読み手の興奮も終わりを迎える。あっけないような気もするけれども結末に制限のある歴史小説、これが幸せな落ち着きどころなのかなあ。少々出来過ぎな設定もあるけれどもそれもご愛嬌。
著者の略歴を見ると大学院でフランス史を専攻、とある。こういった設定の小説をなんの違和感もなく書けてしまうのはやはりそれだけの知識の裏付けがあるからなのだろうなあ。
そして歴史やら法律やらは苦手、とこの本に手を出さない人は多いかもしれないけれども、そういった知識なしで十分に楽しめるエンターテインメントなのだ。
でもきっと、『赤目〜』もそうだけど、直木賞受賞作の中ではあまり売れている部類に入らないんじゃないかなあ、これ。あまり話題にならない受賞作ほど面白い、ってことか?