『博士の愛した数式』小川洋子

ISBN-410401303X
2003年8月
新潮社
1500円+税
256頁/四六上製丸背
装画=戸田ノブコ
装幀=新潮社装幀室

本を買わない、図書館頼みの私がこんなベストセラーを読めたのは、貸してくれたR嬢のおかげ。ありがとう。

きれいごとを抜きにすれば、ほとんどの人にとって仕事をする一番の目的は収入を得ることではないか。でももしもそれを考えなければ……私の憧れの職業は“数学者”だった。
だから日がな飽きることなく数式に向かっている博士の気持ちもわかるし、それ以上に、ただの数字に意味が出てくる瞬間を喜ぶ主人公の気持ちもよくわかる。その感情が物語の中にキラキラとあふれている。
80分しか記憶のもたない博士。その物語がどう転んでも幸せな結末にはならないであろうことは誰にも予想できる。だから食卓での微笑ましい光景を読んでいる時でも涙がぽろぽろとこぼれてくるような。いや、これは決して悲しい物語じゃないんだ。涙はまぶしすぎるキラキラのせいかもしれない。

つい先日、別の本に「ストーリーのなかで、現実にありえないと思ってしまうすました考えの持ち主は、小説とは何かを考えたほうが良いのではないか。」というコメントを頂いたのだが。
それを言ったらこの本の設定こそあり得ないでしょう。それでもその特殊な設定を受け入れさせてしまうリアルな感情がここにあるから。“リアル”というのは“設定がリアル”なことではない。だってリアルな設定だけが求められているのなら、数多のSFの立場は。リアルな設定じゃなくても、その人の立場と感情がぴたりと一致したら、その途端に登場人物はいきいきとした“リアル”なものとなるのだ。“80分のテープレコーダー”が壊れたあとの、もう1分たりとも新しいことを覚えられない状態でも人と会話ができるのだろうか。そんな疑問すらもキラキラに隠れて見えなくなってしまうほどリアルに。

2005年07月20日(水)13:41 by PINO - Category: bookguide
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