ISBN-4105225014
1990年3月
新潮社
1800円
344頁/四六上製丸背
装画=フレッド・マルセリーノ
ISBN-4151200118
2001年
早川書房 ハヤカワepi文庫
1155円
573頁/文庫
新聞やネットの書評を読んで気になる本があると、タイトルと著者名を手帳に書き写すようにしている。が、書き写したからといってすぐにその本を読むわけでもないのでリストばかりが長くなり。そしていざそれを読もうと思った時には、なぜそれを読みたいと思ったかどうかもわからなくなっていることが多い。
本書もそういったリストの中、しかもかなり前の方にあった1冊。最近はその本を知ったソースも一緒に書いているのだが、この頃にはまだそれもしていないので全くわからない。多分朝日新聞の書評ではないかと思うのだけれども。
“侍女”という言葉と北方ルネッサンス絵画のような装画から、中世ヨーロッパの話だろうと思っていた。が、カバー袖の文章を読むと、どうやらSFであり、スリラーであり、オーウェル『1984年』の姉妹編とも言える予言的な小説である、らしい。そして読み始めると……それは全く想像もしていなかった内容の小説であった。
舞台は21世紀初め(本書が書かれた80年代にとっては十分に“未来”であった)、舞台はカバーの絵からほど遠いところにありそうな国、アメリカだ。危機的な少子化を迎えた時代、“侍女”とは妊娠可能な女性のことであり、子どものいない上流階級の家にあてがわれた女性である。その家の子どもを産むという目的のためだけに。その“侍女”の一人である主人公オブフレッド(この名前もあてがわれた“記号”であって本名ではない)による一人称で語られる小説。
SFといってもなじみのないカタカナ語やメカが出てくるわけではない。そのせいで「起こり得る未来」としての恐怖がある。そして恐ろしい状況での人間の精神状態には、過去の戦争や独裁を重ねあわせるととてもリアリティがある。保身、密告、スケープゴート、集団暴力……。
女性が子孫を増やす道具でしかないこの小説が、それでも不快なものでないのは著者が女性だからだろうか。虐げられているのは女性であっても、権力者である男性にも滑稽さがある。そしてこの恐ろしい世界を、息を潜めるようにしながら夢中になって読めるのもやはり女性だけなのでは、とも思う。
例えば。主人公たちがまだ“普通の”生活をしていた頃。突然女性のキャッシュカード(のようなもの)だけが使用できなくなる。といっても財産が没収されるわけではなく、パートナーの男性の管理下になるのだが。その時の主人公とパートナーの態度などは女性にしか理解できないようなものだから。
物語は、どちらとも解釈できる終わり方をする。その緊迫のラストは何度も読み直してしまった。どこかに救いの糸口はないものか、と。
そのあとに“歴史的背景に関する注釈”なる文章が続く。これは後の世の歴史研究家による講演、という形の解説である。息をのむラストのあとでは蛇足のような気もするけれども、これを読んで初めて気付いたこともあるからやはり必要なのだろう。言葉遊びのような要素はやはりなかなか気付かないので。
久しぶりに“最近読んだベスト”と思えるような本に出会った。惜しむらくは仕事の合間にちょこちょこと読んでしまったこと(途中からはやめられずに一気に読んだが)。もう一度時間のある時に最初から読んでみたい。
[追記]雑誌『談』編集長のblogで「クローンによる医療は、女性の身体を資源化する」という文章を読む。『侍女の物語』の世界ではクローンという方法は許されていない。それゆえ“侍女”という身分が必要とされるのだが。しかし“女性を資源化”しているという点は同じではないか。
PINOさん:映画は見ていないです。
「壁」とか「集団製作」とか結構グロテスクな場面も、本だと色彩が印象的であまり気持ち悪くはないのですが、映像だとやっぱり……でしょうか。
見ていないので憶測ですが映像だとショッキングな面が強調されるのでしょうかね。妻と重なるような体制で交わる、って図もそうでしょう。
結末は「注釈」がなければ、たとえ迎えにきた人たちが助けてくれたとしても、そのまま逃げ延びることはできない(悪女の館にいる友人を考えてみても)、どのみち終わりだ、と思いましたね。
でも注釈を読むと、逃げられた可能性もあるのか、と思います。
この本はスリリングなSF、という読み方もできるけれども、私はやっぱりフェミニズム的にシニカルな本だと思っています。
上でちょっと触れましたが、女性のカードだけが使えなくなる場面でのパートナーの描写。それから同じ女性であっても小母や妻、使用人などいろんな立場の女性たちの姿は、現実社会での様々な女性たちと容易に置き換えることができるでしょ。
女性として年を重ねてからまた読むと、若い時とはきっと違った解釈ができそうな気がします。