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『タイムトラベラーズ・ワイフ』オードリー・ニッフェネガー

The Time Traveler's Wife by Audrey Niffenegger/羽田詩津子=訳

ISBN-4270000511
ISBN-427000052X
2004年12月
ランダムハウス講談社
1600円+税
下360頁/四六上製丸背
装幀=こやまたかこ
装画=野田あい
りつこさんが五つ星をつけていたので借りてみた。しかし正直読む前は迷ったのである。りつこさんはタイムトラベルものが大好きなので図書館で見つけて「うおっ!」と即借りしたらしいんだけど、私は別にタイムトラベルもの好きじゃないしなあ。むしろそういう非現実的な設定のものってそれだけに頼っているようなものもあってつまらなかったりするんだもの。それに「ワイフ」だよ。昔の会社の上司(日本人)が「ワイフがね」と言うのを聞くたびに寒気がしていたことを思い出し、こんなタイトルで2分冊、どうなのよと思いながら借りて来た。

タイムトラベラー(遺伝子レベルの一種の病気らしいよ)ヘンリーとその「ワイフ」クレアの物語。ヘンリーはクレアと結婚後、しばしば子ども時代のクレアに会いに行く(といってもどの時代のどの場所に行くかは自分の意思ではないので、それが悲劇の元なんだけど)。だから大人になったクレアがヘンリーに出会うとき、クレアは初対面ではない(しかし会ったことのあるヘンリーはもっと歳をとっているが)がヘンリーにとってはまったく知らない人、というわけ。と、まあこんがらがりそうな設定だけれども、各場面の最初に日付と二人の歳が書いてあるので大丈夫。
タイムトラベルをする時は何も持って行かれないのでいつも全裸で現われる。それがなんとも可笑しくて、そしてまさに危機一髪という感じで乗り越える結婚式などなかなかコミカルな作品でもあるのだ、が。
そんな楽しそうな能力であるタイムトラベルだけれども、やはり未来なんて知らない方がいいのかもしれない。知っていたからと言って変えることはできないのならなおのこと。実際に未来を見たヘンリーはもちろん、その様子から気付いてしまったクレアも、そして我々読者も、時間が止まればいいと強く思う。でも“未来はすでに起きている”ことなのだ。
それまで起きたたくさんの奇妙な出来事に比べれば、静かなおとなしいラストシーン。でも文字が見えなくなるほどに涙が出るなんて久しぶりのことだった。読み終わって一夜明けた今でも思い出して泣いてしまうほどに。

ところで図書館の本なので、下巻を読むときにはもう上巻は返してしまっていたのだけれども、そのことをとても後悔。というのも起きてしまった未来、つまりクレアが子どものときにヘンリーが未来からやって来た場面として書かれていることが、その未来になってヘンリーが過去に行くシーンとしてもう一度出て来たりするから(意味わかるかしら)また戻って読み返したくなるので。

ともあれまたしても自分では手に取らないような本を紹介してくれたりつこさんに感謝!

about book design...
本文はリュウミンだったかな、よく見ないで返してしまいました。
軽快なイラストがいい感じ。

追記:この作者の次回作(この完成度の高い本は何と処女作なのだ!)はもう出ているのかしら、とAmazonで見てみたら。『きみがぼくを見つけた日』というのが。しかしこれは新作じゃなくて、文庫化にあたり本書を改題したものでした。『タイムトラベラーズ〜』とするとSFだと思って手に取らない人もいるけれど、この文庫のタイトルも微妙だねえ。カバーも写真になっているんだけど、単行本のイラストの方が好きかな。
最終更新日時:2007年02月19日12:20:39
2007年02月19日(月)12:14 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『真珠の耳飾りの少女』トレイシー・シュヴァリエ

Girl With a Pearl Earring by Tracy Chevalier/木下哲夫=訳

ISBN-456004693X
2000年6月
白水社
2200円+税
280頁/四六上製丸背
装丁=伊勢功治
ISBN-4560071462
uブックス
この作品について知ったのは本よりも映画が先だった。フェルメールの世界を描いた作品……見たいような見たくないような気がした。
最近はとんと行く機会がなくなったが、10代の頃、美術館がそりゃあもう大好きだった。一通り見た後に一番気に入った絵の前に行く。開館から閉館までずっといたこともある。私が通った中学では3年の時に自由研究なるものを提出して、それは卒論並に長いスパンで書き、製本して抄録もつけるというようなものなのだが、その時に選んだテーマはピカソだった。
絵を見る面白さの一つは、見る人が勝手に自分の物語を想像できることだ。絵の人物が誰なのか、どんな状況なのかを想像するのは楽しい。まったく知識のない状態で見ても楽しいし、その作家について調べると、ははあ、この女たちは新旧の愛人だな、なんてことがわかってまた面白い。そしてそれは正解である必要はないのだ、見る人それぞれに都合のいい物語であればいいのだから。
この作品に手を出すのをためらったのはそのせいだ。見ているとまわりの音が聞こえなくなるようなフェルメールの絵。それを見て作家の考えた物語が私が想像するものとかけ離れたものだとしたら自分の記憶の中の絵たちが汚されるような気がするかもしれない。けれども本を読んだすみさん&にえさんも映画を観たEMYさんも褒めていて、恐れていたような画家とモデルの下世話な話ではないことがわかったのでまずは本を読んでみた。

「真珠の耳飾りの少女」は別名「青いターバンの少女」としても知られている。実際には誰だかわかっていないこの絵のモデルに著者はフリートという少女を設定した。そのフリートが一人称で語ることで本は進んで行く。タイル職人だった父親が事故で失明したためにフリートは16歳でフェルメール家の女中となる。フリートは架空の人物だが、フェルメール家の家族構成や名前、家の間取、義母についている年嵩の女中などは現実と同じだ。そして読んでいるうちにフリートも実在したような気になってきて、そして絵がフリート以外には見えなくなってくる。そして単に美しいだけの世界ではなくて、さもしさや不幸に直結する貧しさを見せつけるものでもある。
ストーリー以外の楽しみは、読み進めるうちにいろんな絵が出てくるのだけれども、「あ、これはフェルメールのあの作品のことだな」と気付くこと。絵に詳しくない方はここ(フェルメールの手紙)に全作品の写真が載っているので眺めながら読むといいかも。ただマダムタッソー人形館のフェルメール像の写真も載っているのだけれど、これは見ない方がいいかも?

絵の世界から外れることもなく、しかしただの絵物語ではなく、引き込まれ、読みふけってしまうような本だった。そして本を読むことでますます絵が魅力的になるような。

EMYさんによると映画の方もあの絵の世界が忠実に再現されたような映像らしい。原作にも象徴的に出てくる広場の星形のタイルなどとっても映画向きだもの。そしてフリート役はプロが選らんだ最もスッピンの美しいセレブスカーレット・ヨハンソンで、大きな目といいまさにぴったりではないか。どうやら映画の結末は本と違うらしいのだがAmazonなどのレビューを読むと映画の方がより恋愛寄りになっているような気がするんだけど、どうなんでしょう。ともあれ映画も観たいなあ。
2006年05月19日(金)11:59 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『小説・捨てていく話』松谷みよ子

ISBN-4480803149
1992年11月
筑摩書房
1262円+税
192頁/四六上製丸背
装幀=中島かほる
カバー装画=司修
「小説」とわざわざタイトルにあるけれども、これは小説ではない。

子どもの頃は、本を読む時に作家名など意識していなかった。大好きな『だるまちゃん』シリーズが加古里子(かこさとし)という漢字で書いたら女性かと思うような人が書いたものだと知ったのは大人になってから。
作家名が気になるのは小学生になってからだろう。そして最初に覚えた名前が「松谷みよ子」ではなかったか。

本書は21の短編から成るのだが、一つ目を書いた時には連載するつもりではなかったらしい。内容については事前にネットの書評で見て知っていたけれども、その一つ目、たった8ページからなる『薔薇の家』という短い話の中に彼女が長らく人に語ることのなかった物語が凝縮されていて、とてもじゃないがすぐに次を読む、なんてことはできない。この人は、こんな状況で、こんな思いの中で子どもの本を書いていたのだ……。
薄い本なのに、一つ読んでは本を置き、また一つ読んでは置き、を繰り返して数日、いや1週間以上かけて読み終える。『薔薇の家』を読んだ時のすうっと心が凍るような、それでいて手には焼けた石を持っているような衝撃こそないけれども、しかし一つ一つがじんわりと。そして七つ目の『親指姫』。本を読んでこんなにも涙が止まらないことはついぞ記憶にないのだが。
 私は一滴の涙も出ませんでした。私は人さまが思うより、我慢づよいたちなのです。でも、我慢しつくしたとき、いまさら泣いたりはしないのです。
本人は泣いていないというのに。ああそうだ、渦中にいるときは涙は出なかったのだ。
十こめ『山姥の林』。舅に「今度のこと、どうしただい」と聞かれてただひとこと「踏んで歩かれましたから」と答える潔さ。ああ、でもこうして後に書いてしまうのだから決して潔いわけではないのか。しかし20年以上も経ってからのこと、もしかするとその時にはもう身内はあまりいなかったのかもしれないが。

私と同世代の、いやもっと若い人たちだって子どもの頃に彼女の本を読んできただろう。だからこそ彼女の文章は今もすっと心に伝わってくる。それ故にこの本には賛否両論あるかもしれない。子どものときの読んだ本の記憶をそのままにとっておきたいのであれば、ここに書かれているのは知りたくない内容だ。そして読み手自身が今辛い状況にあるのならば、とても受け止めることはできない。92年に出た本であるけれども、私がこれを読んだのが今でよかった、とつくづく思いながら。

私自身は『ちいさいモモちゃん』シリーズを最後まで追いかけることなく大人になってしまった。その後の物語を今からでも読んでみよう。著者の子どもへの向き合い方に学ぶところがあるかもしれない。
※このアイテムは2005年09月09日17:25:58に保存されたものを再編集しています 2005年10月07日(金)10:53 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『侍女の物語』マーガレット・アトウッド

The Handmaid's Tale by MARGARET ATWOOD/斎藤英治=訳

ISBN-4105225014
1990年3月
新潮社
1800円
344頁/四六上製丸背
装画=フレッド・マルセリーノ

ISBN-4151200118
2001年
早川書房 ハヤカワepi文庫
1155円
573頁/文庫
新聞やネットの書評を読んで気になる本があると、タイトルと著者名を手帳に書き写すようにしている。が、書き写したからといってすぐにその本を読むわけでもないのでリストばかりが長くなり。そしていざそれを読もうと思った時には、なぜそれを読みたいと思ったかどうかもわからなくなっていることが多い。
本書もそういったリストの中、しかもかなり前の方にあった1冊。最近はその本を知ったソースも一緒に書いているのだが、この頃にはまだそれもしていないので全くわからない。多分朝日新聞の書評ではないかと思うのだけれども。
“侍女”という言葉と北方ルネッサンス絵画のような装画から、中世ヨーロッパの話だろうと思っていた。が、カバー袖の文章を読むと、どうやらSFであり、スリラーであり、オーウェル『1984年』の姉妹編とも言える予言的な小説である、らしい。そして読み始めると……それは全く想像もしていなかった内容の小説であった。

舞台は21世紀初め(本書が書かれた80年代にとっては十分に“未来”であった)、舞台はカバーの絵からほど遠いところにありそうな国、アメリカだ。危機的な少子化を迎えた時代、“侍女”とは妊娠可能な女性のことであり、子どものいない上流階級の家にあてがわれた女性である。その家の子どもを産むという目的のためだけに。その“侍女”の一人である主人公オブフレッド(この名前もあてがわれた“記号”であって本名ではない)による一人称で語られる小説。

SFといってもなじみのないカタカナ語やメカが出てくるわけではない。そのせいで「起こり得る未来」としての恐怖がある。そして恐ろしい状況での人間の精神状態には、過去の戦争や独裁を重ねあわせるととてもリアリティがある。保身、密告、スケープゴート、集団暴力……。
女性が子孫を増やす道具でしかないこの小説が、それでも不快なものでないのは著者が女性だからだろうか。虐げられているのは女性であっても、権力者である男性にも滑稽さがある。そしてこの恐ろしい世界を、息を潜めるようにしながら夢中になって読めるのもやはり女性だけなのでは、とも思う。
例えば。主人公たちがまだ“普通の”生活をしていた頃。突然女性のキャッシュカード(のようなもの)だけが使用できなくなる。といっても財産が没収されるわけではなく、パートナーの男性の管理下になるのだが。その時の主人公とパートナーの態度などは女性にしか理解できないようなものだから。

物語は、どちらとも解釈できる終わり方をする。その緊迫のラストは何度も読み直してしまった。どこかに救いの糸口はないものか、と。
そのあとに“歴史的背景に関する注釈”なる文章が続く。これは後の世の歴史研究家による講演、という形の解説である。息をのむラストのあとでは蛇足のような気もするけれども、これを読んで初めて気付いたこともあるからやはり必要なのだろう。言葉遊びのような要素はやはりなかなか気付かないので。

久しぶりに“最近読んだベスト”と思えるような本に出会った。惜しむらくは仕事の合間にちょこちょこと読んでしまったこと(途中からはやめられずに一気に読んだが)。もう一度時間のある時に最初から読んでみたい。

[追記]雑誌『談』編集長のblogで「クローンによる医療は、女性の身体を資源化する」という文章を読む。『侍女の物語』の世界ではクローンという方法は許されていない。それゆえ“侍女”という身分が必要とされるのだが。しかし“女性を資源化”しているという点は同じではないか。
2005年05月27日(金)11:00 PINO - - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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