ISBN-410410101X
1996年/新潮社
1553円+税
288頁
装画・挿画:建石修志
装幀:中島かほる
本読みにもいろんなタイプがいるようで、しばらく本を読まないと禁断症状が出て狂ったように読みふける人もいますが、私は逆にエンジンが冷えてしまって、読めなくなってしまう。お正月の間にすっかり冷めてしまいましたから、いまだにペースが戻りません。先の2冊は、気軽な読み物という感じだし、1章がとても短いから、読んじゃ休み読んじゃ休みしておりました。で、そろそろ長編小説でも読もうかと図書館で物色。ここで変な本を選んでしまうとエンストしちゃいますから真剣です。去年絶賛した車谷長吉かなあと「く」の棚に行き、久世光彦を発見。この人の本を読むのは初めてですが、前から気になる人だったので、挑戦することに。
久世氏というと演出家としての方が有名で、文部大臣賞をとったドラマ『女正月』は、新聞で見て、「不思議なタイトルだなあ」と思った記憶があります。ちょっとドラマ自体を見たかどうかはよく覚えていないのですが……実は私はあまりテレビって見ないんです。なんか騒々しくって。
「女正月」というタイトルの章は本書にもありました。本当のお正月は女は大忙しでのんびりご馳走など食べていられませんから、15日に、お飾りなどを燃やしてから半日が女の正月で皆で座り込んで飲み食いするんだとか。うーん、今年のお正月は、Y2K問題で出社の家人を尻目にのんびりしてしまいましたから、女正月も何もないですね。
と、前置きが長くなりましたが、本書は昭和初期、五・一五事件から二・二六事件の間の話。主人公は陸軍中尉で、他に軍人仲間や行きつけの娼家の女達、ちょっと問題のある主人公の家族などが主な登場人物。それで1章の半分も読まないうちにはたと気付いたのだけれど、とても自然に頭の中に情景が組み立てられているのです。例えば、坂があって途中に娼家があって、坂の下の方には酒屋や菓子屋、銭湯がある。坂の上には寺があって、金木犀が植わっている。そういったことが決して説明的でなく、でもしっかり書かれているから誰でも間違いなく位置関係などを把握することが出来る。これは久世氏が演出家だからなのでしょうか、この作品をドラマにしようとしたら迷うことなくセットが組めそう。先月読んだ筒井康隆とは対照的です。とにかくドラマっぽいのですね(悪い意味ではなく)。例外は匂いでしょうか。とにかく匂いに関する描写がたくさん出てくる。金木犀の香り。女郎部屋の消毒薬や体臭。文章は匂うけれど、テレビドラマでにおいを表すのは難しい。だからそのうっぷんを晴らすかのようにやけに文章は匂うのかな。それにつけてもすべてが美しく明るい。女郎も然り、主人公の狂った姉も然り、きわめつけは義眼の裏に天皇陛下の肖像を入れているという革命家なのだが、そういった人たちが決して陰鬱でもなく、不気味でもなく、美しく描かれている。そういうのを嘘だと言う人もいるかもしれないけれど、私は小説なんてフィクションなのだから嘘は当たり前、美しいだけの世界があってもいいと思うんです。美しいものばかり読むのも疲れるかもしれないけれど、筒井康隆や笙野頼子など、言葉の洪水に圧倒されてばかりいるのも疲れる。だから時にはこういう世界もいいな、と新年初の長編小説としてはいい選択だったでしょう。
しかし! そのせっかくの美しい世界に水を差すのが唐突に出てくる不気味な挿画。もともと私は小説で文中に挿画があるのはとても嫌いで、入れるのなら章扉を立ててそこにいれろと思うのだけれど、それにしてもこんなおどろおどろしい絵を入れたら台なしではないか。だいたい……ちょっと苦言を書かせてもらうと、この本の編集者は売る気があるんでしょうか、上の写真では小さくて判りにくいかもしれませんが、カバーには金木犀とギリシャ彫刻の瀕死の奴隷像のようなセクシーな男性像。全く内容とあっていない。もっと言えば、タイトル。確かに「陛下」というのはこの小説で大事なキーワードなのだけれど、でもこのタイトルと装画で、書店で手に取る人は少ないと思うぞ。まあどんな帯がついていたかは知らないけれど。そのくせカバーはやたら高い紙使っているし、タイトルは箔押しだし。そういう自分は図書館でこれを選んだではないか、とおっしゃるかもしれませんが、図書館と書店では選ぶ本が違う。図書館の場合は、まず作家を決めて、知っているタイトルがあればそれにするけれど、ない場合は……一番きれいなのを借りる。本当は汚れている本のほうが読む人が多いわけだから面白いのかもしれないけれど、日頃きれいな本ばかり周りにあるから、あんまり汚れていると手が出ないのです。昔は気にならなかったのに、これは職業病か?
ISBN-4093713316
2000年/小学館
1400円+税
256頁
ブックデザイン:
鈴木成一デザイン室
皆さま、マンガって読みます? 私は全然。なんかマンガ読むのって、本読むよりもずーっと疲れる。10代、いや20代初めくらいまでは読んでいたんですけど、単に年取ったのか? 電車の中でマンガ週刊誌読んでいる人を見ると、すごいなーと思います(イヤミじゃありませんよ)。全然違う絵で、全然違う内容のマンガがつぎつぎ載っているのを毎週読むなんてすごいパワーだ、しかも混んだ電車で押されながら(ホントにイヤミじゃありません)。
で、マンガを読まないわけだから、マンガ論なんてもっと読まないんですが、マンガ読む人の中でマンガ論も読む、っていう人はどれくらいいるんでしょうね? 売れるかどうか不安だ。
それで、マンガ読まないから(しつこい)これ読んでもよく判らない。載っているマンガもマニアックだし。でも話題の『ショムニ』がマンガだということが判った(ってドラマも見てないけど)。「これ読みたい!」と思うようなのもあるのですが、そういうのに限って絶版だったりして。
と、判っていない私に紹介されてもこの本も迷惑だな、きっと。この辺でやめよう。ただはたと気付いたのは、知らないマンガの話を読んでもつまらないなーということから、このHPも同じだということ。だからもっといろんな本を読まねば、と思う2000年の幕開けでありました。
ISBN-4063389510
1999年/講談社
1500円+税
320頁
ブックデザイン:
鈴木成一デザイン室
イラストレーション:
沢野ひとし
学生時代、私は芸術学部だったのですが埴輪好きが高じて、歴史人類学系に出入りするようになりました。「先史学実習」に参加して、北海道まで発掘にも行ったのですが、その時に「埴輪が好きで」と言ったら「そんな新しいものは出ないよ」とアッサリ言われてしまった、そりゃそうだ先史学だもの。で、先史学専攻のS先輩から聞いた話。モンゴルに発掘に行ったとき、厳寒の中のテント暮らし、そこにテレビかなんかの仕事で椎名誠が来たんだそう。しかしあまりの寒さにホテルに帰ってしまったんだとか。で、翌朝ヘリでやって来て、取材では「昨日はテントで寒かった」なんてことを言っていたらしい。「椎名誠、アウトドアが苦手疑惑」。
でも、そんな疑惑はこれを読めば吹っ飛びます。本書は椎名誠と彼の仲間たち(中村征夫、野田知佑……)らが春夏秋冬ひたすらキャンプに行くというもの。カラー写真満載で、それらを見ているだけでも十分楽しめる。私は軟弱キャンパーだから暖かい時期しかキャンプしないし、恐いからカヌーも海は行かないし……でもこれを見ていると、月並みないい方だけど、やっぱり自然は一年中素晴らしい、って思えます。沖縄でシーカヤックで無人島にいくところなど、アウトドア好きな人でなくても絶対魅かれると思うよ。一番うらやましいのは、いい年になっても一緒にこういうバカやれる仲間がいることだけど。
ところで彼ら「あやしい探検隊」じゃなかったの? と思ったら、だんだん年もとってきて、何かにつけ「いやはやどうも」と言いながら腰を叩いたりするようになったからだそう。なんともいやはや。