ISBN-4087747883
2005年11月
集英社
1300円+税
136頁/四六判上製丸背
装画=金羅英
装丁=木村典子
読んだことない作家の本を読もうキャンペーン、再び。
雑誌に載っていたこの人のプロフィールに「品位あふれる筆致によって紡がれる作品」とあって、それはいったいどんな文章なのだろう、と気になっていた。そしてこのペンネーム(って本名かどうかは知らないけど)。作家が、渾身の力をしぼって考え尽くした、最も短い作品はペンネームじゃなかろうか。まあ本名の場合や編集者などに決められる場合もあるのだろうが、でも素敵な名前の人はきっと素敵な作品を書くはず、と思っている。
136頁の薄い本、すぐに読める短いお話。初出は「すばる」で、連載じゃなくて読み切りだ。もう一つ別の話と合わせればちょうど1冊になるようなボリュームだけれども、読んでみると独特の空気が流れていて、これは違う話と合わせるのは難しいかな、と思う。
日本人の主人公の青年が、パリで事業を営む姉夫婦を手伝いに渡仏し、そしてなぜかいきなりレストランで働くことになる。そんなことって実際にはそうはないような、でも特に違和感もおぼえずに読み進めていくと。物語は何ともまあ荒唐無稽なものになるのだが、でもそこに行き着くまでにすでにこの作家の描く独特な空気の中にすっかり取り込まれているものだから、すんなりと受け入れてしまう。
他の人の文章だったら「ばかばかしい」と思ってしまいそうな話なのにね、すっかり引き込まれてしまったのはその「品位あふれる筆致」のせいなのだろう。もっと次々読んでみたいな。
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本文は秀英細明朝。
ISBN-4062114577
2002年9月
講談社
1700円+税
368頁/四六判上製丸背
装幀=関口瑚
写真=DYSK
読んだことない作家の本を読もうキャンペーンの次は警察小説を読もうキャンペーン。って2冊読むとしばらくはいいという感じもするが。
野沢さんの
『深紅』を読んだときには、面白かったけれどもなんかテレビの呪縛から逃れられずにいる印象だった。ドラマにしたらきっと面白い。読んでも確かに面白いのだけれども、「さあ、面白いからドラマにしてくれ」と言っているような気がして。そんなことを思っていた頃に著者が自殺して衝撃だったのだが。
本書は文句なく面白い。確かにこれもドラマ化しても面白いのだろうけれども(派手な爆発やビーズの色彩など絵的な要素もいっぱいあるし)、しかしこれは小説として十分に面白いのだ。無差別テロを起こした犯人は、確かにその行動は憎むべきものだけれども、しかしなんとも言えない魅力がある。これはきっと短いドラマでは表現できない。それがなかったらただの派手な犯罪モノにすぎなくなる。
読み終わったあとも何度もまた本を開いて、前の部分を読み返した。彼女の闇がつながっているところを求めて。
ところで、公安というものに普段接することは皆無なのだが(普通はそうだよね)、小説の中にはしばしば出てくる。本書もそうだが、他にこのサイトで取り上げた中ですぐ思いつくのは
『ららら科學の子』や
『ブルー・ローズ』、『サウスバウンド』など(多分もっとある)。小説の中に出てくる公安はたいてい刑事部門と仲が悪く、手段を選ばないひどい組織なのだが、いくら小説の中だからといってこんな非道な書き方をされていいのか? それとも実際に……。
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犯罪モノだが、犯人の正体は読者には最初からわかっている。警察側にもすぐにわかるのだが、その手がかりとなるのがビーズ……というわけでカバーのビジュアルもビーズ。そういえばなぜ爆弾に仕込んだビーズの色は緑にしたのだろう。法衣の色だからか?
本文はLHM。
ISBN-439663238X
2003年11月
祥伝社
1700円+税
336頁/四六判上製丸背
装幀=新妻久典
カバー写真=奥林千明
横山秀夫というと硬派な警察小説のイメージがあるのだけれども、この本はちょっと毛色が違う。主人公・真壁は「ノビカベ」と渾名されるノビだ。ノビとは泥棒の中でも、深夜寝静まった民家に侵入して盗むという手口のこと。こういった符丁のような言葉が次々出てくるところや、警察の内部が描かれているところはいつもの通りだが、決定的に違うのは……。
真壁の耳の中では声がする。死んだ双子の弟の声が。それは幻聴などではなくて、真壁は彼と会話ができるし、記憶力抜群の弟は手助けにもなるのだ。こういった非現実的な設定が他の作品にはなかったところ(私が今までに読んだ範囲で、だけど)。取り上げられる犯罪もそんなに悲惨なものではなくて、人が死ぬ話もあるがもちろんノビである主人公が殺すわけはない。
泥棒の兄と耳の中にいる死んだ弟、その二人による謎解きは、普通の人には見えないようなものが見えているようで楽しい。シりーズにしていつまでも続けられそうな気がするが……そうはいかないことがわかる。兄弟の関係、親子の関係、そういったものから目をそらせていては先に進めないのだなあ。
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本文はイワタオールド。