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『日の名残り』カズオ・イシグロ
The Remains of the Day by Kazuo Ishiguro/土屋政雄=訳
ISBN-4151200037
2001年5月
ハヤカワepi文庫
720円+税
368頁/文庫判並製
カバー装画=渡邊伸綱
カバーデザイン=
ハヤカワ・デザイン
先日読んだ
『わたしを離さないで』がよかったのでこちらも読んでみた。
読みはじめは『わたしを〜』に比べるとずいぶんと入り込みにくい印象。というのも主人公の一人称で語られる話なのだが、その主人公はイギリスの歳をとった執事であるから。執事というものに馴染みのない日本人にとっては決して身近な存在ではないし、その職務内容も今ひとつピンとこない。そしてこの丁寧な言葉遣い。その彼が短い旅に出て、道中、古き良き時代に思いをはせる……という設定自体はそんなに魅力的に感じられなかった。
けれども読み進めるうちにこちらもいろんな想像力が働いてくる。そしてゆったりと穏やかに見えた物語はなかなかにシニカルだったりもして。しかし『わたしを〜』にしろこれにしろ、この著者はほんとタイトルのつけ方がうまいなあ。
about book design...
本文はLHMだったかな。epi文庫の「epi」って「すぐれた文芸の発信源(epicentre)」ってことなのね。
『プリズンホテル』浅田次郎
ISBN-4191250833
1993年2月
徳間書店
1400円+税
276頁/四六判上製丸背
造本・装幀・装画=矢島高光
直木賞というものがなーんか信じられなくなったのは浅田次郎が受賞してからだ。といってもそれは浅田次郎のせいではなくて。彼は十分に受賞に値する作家なのだけれども、なぜ『鉄道員』なのだ?ということ。あの本はとても売れて、「泣いた!」というコメントをあちこちで目にし耳にしたけれども、確かにあれは手っ取り早く泣けるかもしれない。そういう要素を集めたネタ帳みたいな本だから。でも浅田次郎ならあのネタ帳をもっと膨らませて長い話が書けるように思えるのだよね。実際『鉄道員』と同じネタがだぶる『見知らぬ妻へ』というのもあるし。これもネタ帳のような短編集だけど。賞をとるとどうしても『鉄道員』の作家、と認識されてしまう。本当は面白い長編を書く人なのに。だから『鉄道員』ではなくて長編でとってほしかったのになあ。
その浅田次郎の受賞よりもずっと前の長編。文句なく面白い。
ヤクザが経営するホテルにうっかり普通の客が紛れ込んでしまったり、で、この人とあの人とが知り合いだったり、昔のダンナがいたりと偶然もいっぱいあるのだけどそんなことも許せてしまう。だってもともとありえないような話なんだもの、なんでもありだ、まさにそのなんでも来いのホテルのように。
「不自然」とか「リアルじゃない」とかいった感想を書くと「小説なんだからリアルじゃないのは当たり前」みたいなことを言う人がいる。そんなことはもちろんわかっていて、求めているのはその本の中でのリアルだ。現実にはありえないようなことでも本の中でしっかりその世界が出来上がっていて、現実にはいないような登場人物がその世界の中でいきいきと動いているのなら、それはそこではリアルなのだから。
そういう意味でとてもリアルなこの本、支配人やらシェフやら板長やら魅力的な人が大勢いて、これで終わらせるのはもったいない、と思ったらちゃーんと続きも出ているのね。それは読まなきゃ。
about book design...
クレジットに「造本」とある本はたいていちょっと凝っていて、これも巨大なノンブルや大きな文字で抜粋の書かれている章扉など、小説にはちょっと珍しいデザイン。
本文はNKL。扉の大きな字はSHM。こういうのが写植で組んであるのってなんか今見ると新鮮。
『むかつく二人』三谷幸喜+清水ミチコ
ISBN-4344012755
2007年1月
幻冬舎
1470円+税
305頁/四六判並製
装丁=和田誠
なんか気軽なものを読みたくなったのでこれを。
2人でパーソナリティをしていたラジオ番組を本にしたものだそうで、しかし本になっても二人の会話がテンポよく進む感じがして楽しい。放送を聴いてみたかったなあ。
って、こういう本は感想が書けないな……。
『迷産時代』宇佐美 游
ISBN-4575235792
ISBN978-4-575-23579-1
2007年4月
双葉社
1500円+税
264頁/四六判上製丸背
装画=いとう瞳
装丁=重原隆
少子化のニュースを聞くとなんとなく違和感を覚える。
経済的にとか、子育て環境がとか、子どもの育つ地球環境がとか、ほんとにみんなそんなこと考えているのだろうか。子どものことに限らず人はみんなそんなに先の先まで考えて生活しているの? そりゃあ今現在の生活にも困るくらいの経済状態ならためらうだろうが、多くの人は「なんとかなる」と勝手に思い込んで(場合によっては自らに思い込ませて)産むんじゃなかろうか。だから前述のような理由はあくまでも後付で、そういうことが改善されたとしてもやはり積極的に産もうとは思わないのではないか。だとすると少子化対策なんてのはあまり効果がないもので、むしろ少子化でも成り立つ社会の仕組みについて考えるべきなんじゃないかと思うのだけど。
で、本書は「迷産」の名の通り、子どもを持つことに迷いのある女性たちの物語。主人公の違う6つの物語からなるのだが、それぞれの主人公は友だちの友だちだったりして微妙に繋がっている。そういう構成の話ってよくあるけれども、これはつながりが何とも微妙というか、繋がっている意味を感じられない。別に無理に繋げなくてもいいのでは、という感じで。
それよりもっと気になるのは、ここに出てくる子持ちの女性たちは、お金持ちの旦那がいる専業主婦でいつもおしゃれだが幼稚園母たちとの付き合いに煩わされている、もしくは仕事を続けているが乾いた肌と髪でいろんなものを犠牲にしているか、のどっちかだ。子どもがいると自分の時間なんて全くなくなって、おしゃれもできなくて、ってのがこれでもかってくらいに繰り返される。
でも本当にそうかなあ。子どもを産んでおしゃれもせずめっきり老け込む人もいるけれども、そういう人はもともとおしゃれの比重が低い人だったはずだ。実際に子どもの保育園のお迎えのときなど、きちんとおしゃれな人はいっぱいいるのに。
子どもがいると諦めることがいっぱいのように書かれているけれども、ならば子どもがいなければ何もかも手に入るのか? 違うでしょう? なんか全体に悪意があるというか、ものすごくねじ曲げられているようでなんとも後味が悪い。実際に「迷産」している人が読んでますます産みたくなくなったら嫌だなあ。
about book design...
本文はリュウミン。
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