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『LAST』石田衣良
ISBN-4062751771
2005年8月
講談社文庫
533円+税
320頁/文庫判並製
カバーデザイン=坂野公一
(welle design)
カバー写真=伊藤準
(TAVOLA)
外国人窃盗団に雇われ、通帳から現金を下ろす出し子の男が最後に行った手は(「ラストドロー」)。住宅ローンに押しつぶされそうな主婦が選んだ最後の仕事とは(「ラストジョブ」)。リアルで凶暴な世界に、ぎりぎりまで追いつめられた者たちが、最後に反撃する一瞬の閃光を描く。明日への予感に震える新境地の連作集。(カバー表4より)
名前は知っているけど読んだことのない作家は結構いまして、そんな人たちの本を読もうキャンペーン中(って続くのか?)。それでも有名なデビュー作や直木賞受賞作を選ばないところがへそ曲がりだったりして。
本書『LAST』は「LAST RIDE」「LAST JOB」「LAST CALL」などすべてタイトルにLASTがつく、“最後のなにか”にまつわる連作集。そのほとんどがお金にまつわるもので、闇の世界というか、普通に生活している人々の知らない側の話だ。
一番最初の「LAST RIDE」では、傾いた製本工場の主が、信金からお金を借り、サラ金から借り、闇金から借り……債権がわたった深海魚のような会社からの取り立てで残された時間はたった一日。その日にも営業車に乗り込むのだが、それがLAST RIDEということになる。正直、こんなふうな取り立てが現実にもあるのだろうか、と思うがそれを確かめるすべはない、いやあるのかもしれないが確かめたくはない。この本に載っているのはどれもそのような、にわかには信じがたいけれども現実にあるのかもしれないことばかり。上野のホームレスはそんな風に借金を返しているのだろうか。新橋駅前で街金の看板を持って立っている人たちはそんな事情なのだろうか。
カバー表4でも紹介されている「LAST DRAW」は出し子と呼ばれる、盗んだ通帳で現金を下ろす役割がテーマ。そんなものが存在することも知らなかったが、確かに外国人窃盗団が通帳類を盗んでも、日本人名義のそれを持って窓口に行ったら怪しまれるだろう。しかし印鑑もなく電話番号もわからない、通帳と住所氏名だけでも簡単に下ろせてしまうのには驚きだ。著者のあとがきによると、当時はそんなでも簡単にばれずに下ろせていたらしい。さすがに今は無理らしいが。
そういった裏社会が垣間見えた、という点では面白かったかな。読後感はあまりよくはないし、著者が言うように「エンドマークのあとも続く、ぼくたちのリアルな人生を考えるために、この本がすこしでも役に立つ」かどうかはともかくとして。
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講談社文庫の本文ってヒラギノなのね。いつの間に。
『魂萌え!』桐野夏生
ISBN-4620106909
2005年4月
毎日新聞社
1700円+税
480頁/四六判上製丸背
装丁=藤田知子
装画=水口理恵子
桐野夏生さんの本を読むのは3冊目。
これは毎日新聞に連載されていたもので、新聞小説がいきなり「……霊柩車のドアが閉じられた。」なんて文で始まるのだもの、当時読んでいた人は度肝を抜かれたであろう。そういえば『メタボラ』も新聞小説で、私は留守にする間新聞を止めたときはその間のものはもらわないのだけれども(その分安くなるし)『メタボラ』連載時は取り置きしてもらってまとめて読んだり、出先でも新聞を読んだりして欠かさず読み続けたのであった。そんなにもはまった新聞小説はあれだけかもしれない。
そもそも新聞小説ってどんな人が読むのだろうか。新聞を読む人が必ずしも小説を読むとは限らない。景品目当てにまめに新聞を変えたりする人はまず読まないだろうし。家で、比較的のんびり新聞を読む時間のあるような人が対象だとしたら……それはまさにこの本の主人公の敏子のような人かもしれない。子どもたちも大きくなって家を出て、夫も定年になって。そういった読者を想定してこの作品を書いたとしたらなんともチャレンジャーというか意地悪というか。
配偶者が60過ぎで急死するのも、そして愛人がいたことがわかるのも(その愛人は決して親子ほど歳の離れた若いおねーちゃんではなくて、妻と大差ない相手だったりするあたりも)子どもたちと遺産でもめるのも、友人が痴呆になったのか心配になるのも、現実には十分あり得ることばかりなのに、多くの人は自分には関係ないことだと思い、しかしいざそうなったときに戸惑うのだろう。スパスパとそれらを解決できるわけでもなく、けれども時間はどんどん過ぎていく。そんな感じがとてもリアルで読みながら自分のことを考えて、不安になりぞっとした読者もいることだろう。
この人の本はとても面白い。でも諸手をあげて好きだー!と言えないものがある。なんか意地悪なんだよね、特に女性に。そこがまた魅力でもあるのだけれども。「妻」と「母」だけが肩書きであるような女性(それが普通だった時代もあるわけで)が放り出される様は、もしも実際に自分が同じような立場でも楽しめただろうか、不快になるのか身につまされるのか、専業主婦というものをやったことのない私には想像ができない。
この人の本ってどれも映画やドラマになりそうだなあ、と思っていたらこれはすでにドラマになっているのね。
最新作『東京島』も読みたいなあ。
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本文はOKL。
『さくら』西加奈子
ISBN-4093861471
2005年3月
小学館
1,400円+税
384頁/四六判並製
装幀=川村哲司
装画=奥原しんこ
最初に見かけたとき、なぜかNHKの朝ドラ「さくら」の原作だかノベライズだかだと思ってしまったのだ、時期的に全然合わないにも関わらず。なんかカバーの雰囲気もちょっとそれっぽいんだよね。
まったく関係のないものだとわかり、読み始めたのだけれどもやはり第一印象というのは恐ろしいもので、ドラマ「さくら」とは違うけれども、やはり朝ドラっぽい、狭い世界でこちょこちょとしたことが起きる、手軽に気楽に読めるようなものだとばかり思ったのだが。
読んでみたらそんな想像とは全く違うもので。
主人公の家族の中の、確かに狭い世界での物語ではあるのだが、狭いけどとても深い。狭いけど奥はとても広い。そんなお話。
物語は主人公が久々に実家に帰ろうとするところから始まる。新幹線のトイレで吐いたりして、どうやら主人公にはそういう性癖があるらしい。もしかしてメンヘルな人たちの話なのかなあ、そういうものを読みたい気分じゃないなあ、と不安になり、実家についてからもなにやら妙な雰囲気があってますます心配になるのだが、その後始まる主人公の回想にすっかり引き込まれてしまう。
主人公は3きょうだいの真ん中で、兄は伝説になるような人気者、妹は子どもの頃から振り返られるような美人(しかし性格はかなり暴力的)。よく働く父親と美しい母親はとても仲がいい。と書くととても素敵な家族のようだけど、実際とても素敵なのだけど、でもちょっと奇妙でもあるのだ。
古くさいホームドラマのようなものを想像して読み始めたから余計に、物語の中で起きるいろんな「いまどき」なことごとに衝撃を受けたりして。
奇妙ではあってもとても素敵な家族だから、それが壊れていくさまはとてもとても悲しい。ラストは明るいけど、でも失われたものは戻らないんだものなあ、この子たちがずっと、ずーっと子どもだったらよかったのに。
著者はイラン・テヘラン生まれの大阪育ちですって。デビュー作の『あおい』も読んでみたいなあ。
ちなみに「さくら」とは犬の名前です。
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本文はヒラギノ。
章タイトルや小見出しが書き文字になってる。カバーは3色。カバーのどこにも版元名が入っていないのね。
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