ISBN-4000246143
2002年7月
岩波書店
1500円+税
196頁/四六上製丸背
装丁=菊地信義
子どもがほんとの赤ん坊だった頃、ほとんど本が読めずにいて、かわりにネット上の文章を読んでいた。気軽に読める個人の日記がほとんどで、同じくらいの子どもを持つ人のが多かったかな。子どもが大きくなって本を読む余裕が出てくると、当たり前のことなのだがやはり本の方がはるかに面白いのだ。そして同じくらいの子どもがいるということだけしか共通点がなかった人たちの生活にはすぐに興味がなくなって。今も日記を読んでいる人たちのほとんどは実際に会ったことのある人たちで、会ったことがないのに読み続けている人はほんの数人だけ。
そのほんの数人の中の一人が
ECひろしさんだ。お子さんたちはうちよりもずっと大きくて、そもそもなんで読みはじめたのかも覚えていないし、目が離せないような生活をしているわけではない。でもなぜか読んでいる。といっても毎日読むわけではなくて、たまに思い出して一気に読む、という感じだけれど。その日記で紹介されていたのがこの本。といってもだいぶ前のことだし、どんな風に書いてあったのか全く覚えていないのだが。
小説かと思ったのだがエッセイであった。エッセイなど読むのはものすごく久しぶりな気がする。しかし読みはじめてみて、ああこの本は挫折するかも、最後まで読めないかも、と思う。著者は芥川賞作家であるが、その作品を私は読んだことがない。そして小説家でありながら勤務医でもあって、しかし鬱病にかかって仕事を休んだりしていたらしい。知らない人の、しかも全く接点もなく共感もできなさそうな職業や病気の人の書いたエッセイだ。小説ならば構わないけれどもエッセイはきつい。読んでいて何も共感できない。返却期限が来たら読み終わっていなくても延長せずに返そう、そんな風に思いながら仕事の合間に短い話を1つずつぽつぽつと読む。
しかしある日。電車で出かけるときに持って出た。たとえ面白くなくても読みかけの本があるのに他のを読むのは嫌なのだ。そして電車の中や、一人でお昼に入ったカフェで料理を待っているときにまとめて読む。するとそれまでぽつぽつと読んでいるときには理解できなかった世界がちょっとずつ近づいてくる。走ることと止まること。そして歳をとるということ。
最初に著者の境遇を読んで、ああこれは理解できない、と思い込んでしまったけれども。ちゃんと大きな接点があるではないか。著者は中年になって鬱病を発症したと書いているけれども、その年齢が今の自分よりも若いことに驚く。そう、自分ももうとっくに中年になっていたのだな、自覚のないままに。
自分が中年であることを認めること。それは「いつかは○○できる」と思っていた「いつか」は多分ないということを認めることでもある。なんて書くとみもふたもないけれども、現実を認めた方が病気にならないのかも。
「頑張れ」なんて言葉を使わずに、人を励ましてくれる本かもしれないなあ。中年(自覚がなくても)におすすめ。
about book design...
本文はリュウミン。
カバーは2色かと思ったら。背のイラストの色が表1とちょっと違う。ええっ、このためだけに3色!? 贅沢!
ISBN-4103780053
2004年3月
新潮社
1300円+税
224頁/四六判
仮フランス装
装画=川上和生
装幀=新潮社装幀室
数年前、35歳にして自ら命を絶ったニュースを聞いた時は驚いた。しかし気づけばこの人の本をちゃんと読んだことがなかった……というわけで初めて読んでみたわけなのだけれども、これを書きながら気づいたのだが、これは亡くなる前の月に書かれた最後の作品なのだなあ。
2つの話がおさめられているのだが。
1つめは友人男性とその子どもと同居する男性(といってもゲイではない)。2つめはバリバリ働く二度の離婚歴のある女性が主人公。共通するのは、どちらも自分とは血のつながっていない子どものことをものすごく気にかけている、ということだ。
私自身が子どもと暮らしていて思うに、子どもというものは自分と血がつながっているからかわいいわけではない。血のつながりなど普段は意識することなどなくて、その子本人がかわいいのだ。そう考えるのだけれども、それは実際にまぎれもなく自分の子だからなのだろうか。もしも他人の子だったとしても同じように思えるか。それは想像の範囲を超えているから私にはわからないのだけれども。だからこの主人公たちと子どもたちとの関係が自然なものなのか、それともあり得ないものなのかどうかはわからない。それでも家族を求めて手探りで進む主人公たち(そしてその家族たち)には好感が持てる。
もしも今自分が一人だったらこんな風に家族を求めるのだろうか、と考えるも、これまた想像力を超えていてわからない。けれど亡くなったとき著者は一人暮らしで、これが最後だと思うと、彼女も2つめの話の主人公同様「形のある何か」が欲しかったのではないか……なんて思うのは1冊しか著作を読んでいない読者の浅はかな考えかもしれませんね。
about book design...
本文書体が……これ、時々見かけるのだがなんだかわからない。「な」とか「は」とか「い」とかの字画がずるーっとつながっている書体。OKLほどそっけなくないけれども精興社ほどクセがない。気になる……。