ISBN-4104471011
2001年6月
新潮社
1300円+税
168頁/四六上製丸背
装画=長谷川利行
装丁=新潮社装幀室
芥川賞作家であるこの人の本を読むのは初めて。
王子駅というと私はまず南北線が浮かんでしまうのだけれども、この本では都電だ。一人称で語る主人公の家は線路に近くて、銭湯に行ったり、居酒屋に行ったり、古書店に行ったり。格安の家賃のアパートの大家さんは旋盤工場で、ちまちまと翻訳業をして生計を立てる主人公は、その大家の娘の家庭教師などもしている。そんな町の様子が目に浮かぶようで、電車や工場の騒音さえ聞こえてきそうだ。
電車や、古道具屋で買った自転車(店主が「自分で売っておいて無責任だけど、そんな自転車であんまり遠くへ走らない方がいいですよ」なんて言うような代物)や、馬や、大家の娘の咲ちゃんや、いろんなものが走る話だけれども、決してスピーディじゃないのは走っているものがどれも前時代的というか、自動車じゃないからかな。そういえば印章彫の忘れ物を届けようと酔っぱらっているのに叫びながらよろけながら走るところから始まるのであった。そして結局その忘れ物も渡せないままだし、咲ちゃんの競技会の結果もわからないまま本は終わるのだけれども、そんな終わり方がまた、これからもこうやって続く彼らの生活を思わせていいのかもしれない。
そうそう、やけに馬が出てくると思ったのだけれど、雑誌『書斎の競馬』に連載されていたものだそうだ。
about book design...
本文は精興社明朝。
ISBN-4105900250
2001年8月
新潮社クレストブックス
2000円+税
384頁/四六判仮フランス装
Photograph=Joel Meyerowitz
Design=Shinchosha Book Design Division
初めて読んだクレストブックスは
『アムステルダム』で、当時『朗読者』も話題になっていたせいもあり、これはすごいシリーズだ、全部読みたい!とまで思ったのだけれども、最近読んだものにはなんか微妙なものも……特に
『最後の晩餐の作り方』はかなり読むのが苦しかった。だからこの本は知っているイラストレーターさんのサイトで紹介されていたので読もうと思ったのだが、いざ本を見つけた瞬間「うっ、またクレストブックスか」なんて思ってしまったくらいで。でも同じレーベルから出ている本がみんな同じテイストのわけじゃないものね。
主人公の女性の家に深夜ノックの音がする。それはパイロットである夫が操縦する飛行機が墜落したことを知らせにきた組合の人間だった。明らかにされて行くのは事故の真相、だけではなくて妻の知らなかった夫の行動の方がむしろ重要だ。夫のそのような行動を知ることは妻にとってこの上なく辛いことなのだろうなあ、と頭では理解できるけれども、そんなときに自分がどう思うか、なんてことはあまり想像できない。むしろ旅先から電話をして受話器の向こうの娘がまさに自分の望まない行動をしようとしているのにどうすることもできない場面の方がはるかに苦い気持ちになる。
「十分な時間を与えられれば、女性はたいてい立ち直りますね。ただ、不幸なことに……」(中略)
「子供たちは、そう簡単には立ち直れないんです」ゆっくりと言った。「世間じゃ、子供は回復するのが早い、と言いますが、実はちがうんですね。子供は変貌するんです──何か災難にあうと根本から変わって、それから適応していくんです。」
多くの被害者家族と接してきた組合の男性のこの言葉がしみる。
といいつつも今、いろんなことの真相が一気にわかる終わりの1/4くらいを読み返したら涙があふれそうに。もしかするとこれは後からじわじわ来る本かもしれないなあ。読み返せば読み返すほどに。
about book design...
クレストブックスの本文は精興社明朝。
カバーの写真はレンタルフォト。海に面した主人公の家のイメージなのだろう。でもその家は元修道院だからね……。
以下はネタバレ&あまり関係がないかもしれない話なので
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