『花の下にて春死なむ』北森鴻

Kou Kitamori

ISBN-4062094029
1998年11月
講談社
1600円+税
242頁/四六上製丸背
装幀=藤田新策
朝日の書評を見て借りようと思った本はシリーズものだった、というわけで1冊目のこれを。

6つの話からなる短編集。一つ目の表題作に出てくる女性飯島七緒が主人公なのかと思ったら、謎解きをするのは彼女が行きつけのビアバー香菜里屋のマスター工藤である。といっても七緒も常連なのでその後の話にも登場したりするのだが。
孤独死した俳人が何者かなのを探る話なのだが、ときどき俳句の混じる故人の日記にはなんともいえない雰囲気があっていい。それだけで話としては十分なのに、別の事件を結びつけたところがいささか強引な感じでちょっと興ざめ。
その後の他の短編たちも、謎解きとしては無理がある感じはするのだけど。しかしそういったことに目をつむってでも読みたくなる魅力的な要素があるのだ。それが香菜里屋というお店自身。細い路地沿いの目立たないこのお店には常に度数を変えた4種類のビールが置いてあり、よく冷えている。話に夢中になってビールがぬるくなると、さりげなく新しいのにかえてくれたりもする。そして出てくる料理がもう、読みながら唾を飲み込むほどおいしそうなのだ。こんなお店が近くにあればなあ、時々一人でふらりと寄れたらなあ、と思うまさしく理想のお店で。けれども「そんないい店、あるわけないよね」と思わせるようなものではなくて、本当にどこかにこっそりと存在しているのでは、と思ってしまうような絶妙な感じなのだ。だから謎解きよりも、本を読むことで常連に交じってような、そんな気持ちになれることが嬉しいのだよ。そんな雰囲気を味わいたくて、きっと続編も読んでしまいそう。

about book design...
うーん、この本文はなんだろう。ちょっとぬめっとした書体。
で、カバーなんですが……。これはちょっと反則じゃないかなあ。上記のようにこの本の魅力は香菜里屋というお店であり、その居心地のいい空間を読む人それぞれの頭の中で思い描いてぼうっとするのが楽しみなのだ。なのに装画にたとえ入り口だけとはいえお店の絵を描いてしまうのは興ざめだよ。文中に何度も出てくる印象的な提灯もこんな味気ないものではあるまいに。
2007年05月29日(火)14:30 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『美濃牛』殊能将之

MINOTAUR by Syuno Masayuki

ISBN-4061821237
2000年4月
講談社ノベルズ
1300円+税
544頁/新書版並製
ブックデザイン=熊谷博人
カバーデザイン=辰巳四郎
ノベルズ、リベンジ!というわけでもないのだが。ミステリを読むとき参考になるのはもろやんさんのサイトでしょう。私がサイトを始めた頃からの付き合い(といってもたまに掲示板に書き込む程度ですが)で、当時はまだ学生さんだったのがいまでは立派にミステリ評論家である。その彼オススメのこの本を。

メフィスト賞受賞のデビュー作『ハサミ男』についてもそのタイトルしか知らないし、覆面作家であるということも本書の解説を読むまでは知らなかった。そんな状態で読み始めると。
私は10代の頃横溝正史にハマったのだが、ずっと遠ざかっていたあの世界を思い出させるような、小さな村で起こる連続殺人事件。旧家の一族が次々と、古いわらべ歌に関連するがごとく殺され、最初に見つかるのは首なし死体。迷路のような洞窟まであってこれはまさに横溝へのオマージュか。最初の注意書きに
岡山県に獄門島が実在しないように、
岐阜県に暮枝村は実在しない。
とあるし。が解説によると実際は単に横溝だけではなく江戸川乱歩や中井英夫など、この本は探偵小説であると同時に探偵小説批評でもあるらしい。と、ミステリ通が読んだら唸らされるような仕掛けがそこここにあるのだろうが、もちろん私のようなミステリ初心者でも十分に楽しめる。各項目の頭には牛などにまつわる引用があるのだが、それも『ギリシア神話』に『古事記』落語に歌舞伎、「俺ら東京さ行ぐだ」なんて吉幾三の歌まである。それらが決して強引ではなく内容と合っていて、なんともいえない和音を奏でるような感じ。ストーリー的にはなんか気になるところはちらほらあるけれども、文章の和音とクセのある登場人物たちによってテンポ良く進み、細かいことはどうでもよくなってくる。

『ハサミ男』と、本書で出てきた探偵石動のシリーズ、ぜひ読んでみなくては。

about book design...
本文はNKL。2段組。
ノベルズなのにタイトル箔押し!
しかしこのカバーは怖いです、ひねりだしたような金色の牛の造形と真っ赤な肉。巻末の広告を見ると『ハサミ男』も同じシリーズらしい。
首なし死体、などという猟奇的な事件が起こるわりには文章はあまりおどろおどろしい感じがないので楽に読めたのだが、このカバーを見ると深夜などは怖くなる。折しも殺害した母親の首をバッグに入れて持ち歩いた男子生徒の事件などあったときだから余計に。表1を下にしてなるべくカバーを見ないようにしてました。
2007年05月21日(月)14:39 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『泣きたい気分』アンナ・ガヴァルダ

ISBN-4105409018
2001年7月
新潮社
1300円+税
208頁/四六並製
Illustration
=Keiko Matsumoto
Jacket Design
=Shinchosha Book
Design Division
重たい小説を読んだあとなので、今度は軽いものを。以前読んだ『チート』の巻末広告で見て気になっていたこの本を選ぶ。
フランスの、若い(本書を書いたときはぎりぎり20代)女性作家による短編小説集。

一つめの話『サン=ジェルマン作法』を読んでいるときは正直「しまった」と思った。主人公の女のコは、道ですれ違った好みのオトコとデートをし……というお気軽な恋愛小説のようだったから。「軽いもの」が読みたくて選んだとはいえ、そんなお手軽な話は嫌だな、と思う。
でも次々読んでいくと、「泣きたい気分」になるのは必ずしも恋愛のせいではないことがわかる。軽い恋愛のせいで「まったくもう」と思う程度のことから、重大な良心の呵責にさいなまれるものまでいろいろだ。どの話も短く、テンポのいいものなので飽きることなく読むことができた。

原題は直訳すると「誰かにどこかで待っていて欲しい」だけれども『泣きたい気分』という邦題は絶妙。必ずしも泣いてしまう話ではなくて、あくまでも「泣きたい」なのだもの。

about book design...
本文はNKL。
巻き見返し、それも二つ折りにするのではなくて、1枚の見返しでくるんでいるので前後それぞれ1枚ずつの見返しになっている。表紙を思いきり開いたときにノドの糊が見えたりするのであまり好きな形ではないのだけど。表紙のラフ目の紙を見せたかったのかな。
扉も1色、本文共紙なので全体にちょっと安い感じ。
2007年05月02日(水)01:34 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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