『テロル』ヤスミナ・カドラ

ISBN-4152088052
2007年3月
早川書房epiブックプラネット
1800円+税
280頁/四六並製
イラスト=高野謙二
装幀=ハヤカワ・デザイン
料理本などは別として、図書館で本を予約して借りることはほとんどない。なぜなら予約した本が確保されると1週間以内に取りに行かないと無効になってしまうのだが、前に借りている人がいる場合はいつ確保されるか予想がつかなくて、で、確保済みの連絡が来たときに読みかけの本があったりすると(というか常に本を読んでいるから読みかけの本は必ずある)それを慌てて読む羽目になる。慌ただしい読み方をするのは嫌だし、そもそも予約などしないで読める本のなかにも読みたいものはいっぱいあるのだ。
けれどもすみ&にえ「ほんやく本のススメ」でこの本を知ってどうしても読みたくなってしまった。で、珍しく予約をしたのだが、案の定前の本『検屍官』を読んでいる途中に連絡が来たので急いで読むことになってしまったのだが。

表4のあらすじから引用すると
イスラエルの都市テルアビブに瀟洒な家をかまえるアラブ系の医師アーミンは、最愛の妻シヘムとともに幸福な生活をおくっていた。
だが、あの自爆テロがすべてを変えた。19名の犠牲者。その中にシヘムがいたのだ。呆然とするアーミンに刑事は衝撃的な言葉を吐く。
「テロの首謀者はあなたの妻だ」
妻は妊婦をよそおって爆弾を腹に抱え、自爆したという。なぜ彼女がそんなことを……。
アーミンは真相を探るため、妻のルーツを探り、やがて想像を絶する真実に辿りつく。
イスラムの夫婦の見えざる亀裂を描きだす、悲しみに満ちた愛の世界。
アラブ系であるのにイスラエルで医師として成功したアーミン。そこまでの苦労はただならぬものであっただろう。重症で病院に運ばれてきた患者の中にも「アラブ人に触られるくらいなら死んだ方がましだ」などと言う者もいるのだ。そんな努力の人アーミンがテロリストの家族だということで暴徒に襲われたり、家も滅茶苦茶にされる。病院内でも職場復帰を阻止するための書名が集められたりする。そういったことを読むと、物語に出てきたときにはすでに死んでいる妻ヘシムのことが憎くなってしまう。テロリストというだけで理解できない憎い存在だが、そんな立派な夫の人生までも滅茶苦茶にしたと思うと余計に。
しかしアーミンはシヘムを憎まない。むしろ妻の出していたであろうサインに気付かなかった自分を責める。そしてなぜ妻がそんなことをしたか、ただただそれを知りたくて、壁の向こうの、危険な地域に足を踏み入れる。
イスラエルの「壁」について我々はどれほどのことを知っているだろうか。根本的な解決に結び付かない壁を建設中である、ということだけおぼろげに知っているだけだ。豪華な家が並び、人々が海外にバカンスへ出かける都市テルアビブ、しかし同じ国内の壁の向こうには、道を歩いているだけで狙撃され、死体が晒される戦場があるとは。その世界はアーミンにとってすら衝撃だったのだ、我々にはそれ以上である。けれど壁の向こうにあるのは戦場だけではない。アミーンの故郷もまた壁の向こうに追いやられているのだ、静かな果樹園だというのに。
たとえどんな理由があろうともテロ行為を許すことも認めることもできない。しかしただ非難するということも我々にはできないのだということに気付く。非難するためには、その前に相手のことを知らなければならないのだ。そしてイスラエルの問題について我々はあまりにも知らなすぎるから。

このように書くと思想的な本のようだが実際は違う。民族愛のみならず夫婦の愛、友との愛に満ちた話だ。物語はアーミンの一人称で書かれているのだが、彼自身アラブ系のイスラエル人であるからどちら側にも完全に属すことができずにいる。どちらの民族をも非難することなく淡々と進んでいくからこそ、こんなにも外国人の心を揺さぶるのであろう。

about book design...
本文は岩田細明朝。
見返しを表紙に全面貼付けずに、遊びが2枚になっている。
別丁扉は1色で、カバーと関連のないデザインなのでシリーズで統一しているのかな。
いろんな出版社がこういった現代の海外分額シリーズを出している。新潮社のクレストブックスや河出のModern&Classicなど。本書はまだ3冊目だが早川書房のepiブック・プラネットシリーズ。
何の予備知識もなくこの本を見たら、早川書房でこのデザインだともっとミステリっぽいものや過激なものを想像するんじゃないかしら。もしもクレストブックスから出ていたらきっとまったく違う印象の本になっていたに違いない。 [続きを読む]
2007年04月25日(水)10:48 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『検屍官』パトリシア・コーンウェル

Postmortem by Patricia Cornwell/相原真理子=訳

ISBN-4061850695
1992年1月
講談社
760円
512頁/文庫
カバーデザイン=辰巳四郎
前回本格推理のつもりがファンタジー色の強いものを読んでしまったので頭がミステリを求めている。なので今回はハズレのないよう有名な作品にしてみました。

主人公ケイ・スカーペッタは検屍局長。科学捜査の進んだアメリカらしく、検屍官は単に死体や遺留品を調べるだけじゃなくて積極的に捜査に加わるらしい。今回は連続女性惨殺事件。
本格ミステリが読者も一緒に犯人を推理していくようなものだとすると、これはミステリというよりもエンターテインメントだろう。薄汚れた身なりの叩きあけの部長刑事に、ハンサムな検事、仕事オタクのような指紋係などなど映画のキャストを考えるのが楽しそうな個性的な人物が揃っている。といっても死体の描写は欠かせないから映画化はできないかもしれないが。でもこのスピード感に緊張感、映画を見ているかのようだ。
そしてこのシリーズが人気があるのがとてもわかるような気がするのがその設定のうまさ。ケイは離婚歴のある40歳だが、局長という地位からしてこれ以上若いとリアリティがないだろう。離婚歴があるというのも、決して仕事一筋で突っ走ってきたわけではなく、しかし仕事も家庭も何もかも手に入れられたわけでもなく、ってところに読者は共感するのだ。そしてこの年代だったり離婚歴があったりする女性が求めるのは決して結婚相手ではなくて、公私ともに頼れるパートナーなのだけれども、ケイにはそんな羨ましい存在の男性がいる。でもそれをいつまでも続く安定した関係としなかったところが絶妙。
まあ不満がないわけでもないが(ここよりネタバレ、反転して読んで下さい)最後は大団円という感じで、まあそこがまた映画っぽくもあるのだけど。あと途中から訳あってあまりに急いで読んでしまったので見落としたのかもしれないのだが、ローリーの夫のナイフはどうして引き出しに仕舞われていたんだろう?でもそんなことが気にならないほど面白かった。シリーズになっているのでまだまだ楽しみが続くと思うと嬉しい。

about book design...
本文はNKLかしら。
Amazonの書影と全然色が違うなあ。青っぽく見えるところ、実際は紫。
この本に関係のないことですが、ずっと前にAmazonで本を買うと文庫カバーが貰えるというキャンペーンをやっていたのね。その時は別に欲しくもなかったけど、貰えるんなら、と入手してあった。で、ふと思い出して今回初めてそれを使ってみたわけですが、しおりがついているので意外と便利だ。使うんだったら汚れやすい白になんてしなければよかったなあ。
2007年04月19日(木)16:50 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『月の扉』石持浅海

ISBN-4334075339
2003年8月
光文社カッパノベルズ
819円+税
296頁/新書版並製
カバーデザイン=泉沢光雄
ノベルズなんて読むのは久しぶり、20年以上読んでいないような気もする。そもそも10代の頃は推理小説ばかり読んでいた時もあったのに、いつの間にかほとんど読まなくなっていた。とても久しぶりに読む「長編本格推理」というわけで楽しみに読みはじめたのだけれども。

推理小説を紹介するのは難しい。ネタバレになってはいけないからだ。なのでカバー表4にある文章をそのまま紹介すると
週明けに国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生した。三人の犯行グループが、乳幼児を人質に取って乗客の自由を奪ったのだ。彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。緊迫した状況の中、機内のトイレで、乗客の死体が発見された。誰が、なぜ、そしてどのようにして──。スリリングな展開とロジカルな推理!(以下略)
で、読んでみた結果は……いささか期待はずれであった。
というのも私はカバーのあちこちに書いてある通り「本格推理」を期待して読みはじめたのである。しかし実際は「本格推理」というよりも「ファンタジー」のような要素が強いからだ。だからそう書いてあればもっと納得して面白く読めたのかもしれない。

(以下、ややネタバレ)ハイジャック犯の3人はトイレの死体の解明を、たまたま近くの席にいて死体発見者の恋人である「座間味君(座間味のTシャツを着ていたから)」にゆだねる。そこから先がどうにも緊迫感がない。ハイジャックされた機内、3人の腕には人質の子ども、という状況での会話とは思えないのだ。3人は最初それぞれが別の出入り口に立っていたのだが、トイレの死体が見つかったので後部の一カ所に集まっている。しかもなにやら話している。そんな状況で機内の前方まで制御できるのかなあ。最初に携帯で外部と連絡を取ることを禁止しているけれども、絶対メールなど送るやつはいるだろう。それに大人はともかく子ども、人質以外にも子どもの乗客はいるのだ、状況の理解できない子どもたちが2時間もおとなしくしているわけがない。人質の子どもたちだって乳児とはいえ暴れるだろう。片手で2時間おさえているのは至難の業だ。会話が進む間、その他大勢の乗客についてはほとんど触れられていないんだよね。(ここよりかなりネタバレ、反転して読んで下さい)そもそも犯人が誰であるかはその行動がやけに詳しく書かれていたところからすぐわかる。手順や動機は別にして。で、ファンタジーだと思った一番の理由は、ハイジャックの目的が、開放された師匠に月の扉を開けてもらって別の世界に行くため、なのだ。トイレの殺人もそのことと関係している。その扉を開ける力を持った師匠は本当のカリスマで、ぐったりしていた人質の子どもたちも彼が軽く頭を触れただけで生気を取り戻したらしい。うーん、この設定って推理小説としてありなのかなあ。しかもその師匠なる人物、会った人が、警察官までもが次々と惹き付けられるということは書かれているけれども、その人自身がどうすごいのかが全然伝わってこないので、そんなすごいことができる人だとは信じがたいのだ。そしてハイジャック犯たちの目的が別の世界に行くことだから、逃走経路は用意していないのね。推理の対象はトイレの殺人の方とはいえ、設定があまりに非現実的なような。と書くと文句ばかりのようだが、あくまでもそれは「本格推理」小説だと思って読んだからであって、ファンタジーと思えば面白かったのかもしれない。

about book design...
本文は本蘭明朝。ノベルズって2段組だったのね(←そんなことも忘れるほど長らく読んでいないらしい)。
2007年04月19日(木)16:50 PINO - No comments - No TrackbacksTrackBack用URLTrackBackフォーム
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『月の扉』石持浅海

ISBN-4334075339
2003年8月
光文社カッパノベルズ
819円+税
296頁/新書版並製
カバーデザイン=泉沢光雄
ノベルズなんて読むのは久しぶり、20年以上読んでいないような気もする。そもそも10代の頃は推理小説ばかり読んでいた時もあったのに、いつの間にかほとんど読まなくなっていた。とても久しぶりに読む「長編本格推理」というわけで楽しみに読みはじめたのだけれども。

推理小説を紹介するのは難しい。ネタバレになってはいけないからだ。なのでカバー表4にある文章をそのまま紹介すると
週明けに国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生した。三人の犯行グループが、乳幼児を人質に取って乗客の自由を奪ったのだ。彼らの要求はただひとつ、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」石嶺孝志を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。緊迫した状況の中、機内のトイレで、乗客の死体が発見された。誰が、なぜ、そしてどのようにして──。スリリングな展開とロジカルな推理!(以下略)
で、読んでみた結果は……いささか期待はずれであった。
というのも私はカバーのあちこちに書いてある通り「本格推理」を期待して読みはじめたのである。しかし実際は「本格推理」というよりも「ファンタジー」のような要素が強いからだ。だからそう書いてあればもっと納得して面白く読めたのかもしれない。

(以下、ややネタバレ)ハイジャック犯の3人はトイレの死体の解明を、たまたま近くの席にいて死体発見者の恋人である「座間味君(座間味のTシャツを着ていたから)」にゆだねる。そこから先がどうにも緊迫感がない。ハイジャックされた機内、3人の腕には人質の子ども、という状況での会話とは思えないのだ。3人は最初それぞれが別の出入り口に立っていたのだが、トイレの死体が見つかったので後部の一カ所に集まっている。しかもなにやら話している。そんな状況で機内の前方まで制御できるのかなあ。最初に携帯で外部と連絡を取ることを禁止しているけれども、絶対メールなど送るやつはいるだろう。それに大人はともかく子ども、人質以外にも子どもの乗客はいるのだ、状況の理解できない子どもたちが2時間もおとなしくしているわけがない。人質の子どもたちだって乳児とはいえ暴れるだろう。片手で2時間おさえているのは至難の業だ。会話が進む間、その他大勢の乗客についてはほとんど触れられていないんだよね。(ここよりかなりネタバレ、反転して読んで下さい)そもそも犯人が誰であるかはその行動がやけに詳しく書かれていたところからすぐわかる。手順や動機は別にして。で、ファンタジーだと思った一番の理由は、ハイジャックの目的が、開放された師匠に月の扉を開けてもらって別の世界に行くため、なのだ。トイレの殺人もそのことと関係している。その扉を開ける力を持った師匠は本当のカリスマで、ぐったりしていた人質の子どもたちも彼が軽く頭を触れただけで生気を取り戻したらしい。うーん、この設定って推理小説としてありなのかなあ。しかもその師匠なる人物、会った人が、警察官までもが次々と惹き付けられるということは書かれているけれども、その人自身がどうすごいのかが全然伝わってこないので、そんなすごいことができる人だとは信じがたいのだ。そしてハイジャック犯たちの目的が別の世界に行くことだから、逃走経路は用意していないのね。推理の対象はトイレの殺人の方とはいえ、設定があまりに非現実的なような。と書くと文句ばかりのようだが、あくまでもそれは「本格推理」小説だと思って読んだからであって、ファンタジーと思えば面白かったのかもしれない。

about book design...
本文は本蘭明朝。ノベルズって2段組だったのね(←そんなことも忘れるほど長らく読んでいないらしい)。